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ひよこ日記。昼休み。ペパーミントティー

朝の人事異動の一件でからだがソワソワして落ち着かない。胸がザワザワする。でも目の前にある仕事はそれはそれ、これはこれ。と線引きをして今やらないといけないことはやらないといけない。と、言うわけで書類に目を通してミスがないかを確認してから部長に引き渡し、じゃんじゃんなる内線を取次ぎし、取引先からの電話に対応して手帳片手に打ち合わせの日付を決め、先輩たちが出張に行った際の大量の領収書やら明細書なんやらを仕分けし、一心不乱に打ち込んでプリントアウトして経理部に持っていき、それから備品を発注するのに在庫確認と簡単な棚卸しをしてから発注処理をし、次の自分の出張先のホテルの手配や各公共機関のチケットの手配をしていたところで昼休みのチャイムがなった。

おなかは空いているが食べたいという気力が湧かないのはどういうこと?あー、スッキリしない。

ひよ、ごはんの時間だぞー。

デスクの向かい側の席からテオが話かけてきたがいまいち社食に行く気がしない。

あー、わたし今日ここでお弁当食べるからいいや。テオ行っといでよ。みんなによろしくー

そう?なら行ってくる。

はーい

テオを見送り先輩たちにもごはんのお誘いを受けたけど、お弁当があるからとお断りした。

はー…つかれたし。

お弁当箱を開けるがさっぱり食がすすまない
一口サイズのいろんな味のサンドイッチにフルーツいっぱいのお弁当を作ってくれたのはアルベルトだ。

…きっと晴れやかな気分だったら社食にお弁当持っていってみんなとおしゃべりしながらぺろっと食べてるだろう。

午後からはちゅーぎん査定部と合同のミーティングが入っている。

ひよこちゃんはおなかいっぱいだと眠たくなるから。と神旦那のアルベルトがわたしのスケジュールを見越して絶妙の分量で作られたこのお弁当を捨てるわけにはいかない。

美味しいのはわかっているが気分が冴えないのでモソモソと食べている。

いかん。いつまでも引きずるわけにはいかない!スッキリするペパーミントティーでも飲もう。と席を立つと外の廊下を3つの部署を掛け持ちで見ることになったハイパーエリートの変人フレッドが歩いていた。

あの人掛け持ちするのはキツくないの?本人的には嬉しいヤツなんかな?

ぼーっと見てたら気づかれた。

スタスタとこっちにやってきた

ごきげん麗しゅう室長さま。

何だそのロココな挨拶は。流行ってんのか?

別に流行ってない。

昼休みだぞ?メシは?

ここで食べたよ。フレッドは?

オレは早めに済ませたんだ。異動の発表があっただろ?社食ごった返すに違いないと思ったから。

へー。

おまえメールみた?

フレッドからの?人事異動の?

両方だよ。

みた。

ふうん。で?だからそこでぼっちメシしてるのか

まあね。いろいろあるのよ

何か言いたそうな顔してるが何も言わずに頭をぽんぽんされた。

なによう
いいだろべつに

フレッドは3つ掛け持ちじゃない?
ああ、そうだな。

イヤじゃないの?

まあ、イヤとかではないな。慣れてるし。

すごいメンタルよね。

そうか?そう見えるだけだろ。

そうなの?

プレッシャーはオレにだってちゃんと備わってる機能だ。

あはは

ね、お茶いる?てか時間は?

時間はある。昼休みだしな。

ペパーミントティーだけどいい?

もちろん。

マグカップにペパーミントティーのティーバックを突っ込んだまま渡すとサンキューと返事がきた。紅茶ならこうはいかない。ちゃんと淹れないと露骨にイヤーな顔される。

ズズズーとふたりしてペパーミントティーをのむ。その間全く会話はない。

おまえ、死にそうな顔してるぞ?

わかる?

わかりやすすぎるくらいわかる。

みんなにバレてるかな?

どーだろな?

まあ、あれだな。気負うな。

わかってるんだけど

だけどおまえは気負うんだよなあ

フレッドはくくくと笑う

大丈夫だよ。なんとかなるさ。

ほんとに?

ああ。

背広のポケットをゴソゴソして小さな缶からいつものキャンディーを取り出した。

いる?

ワックスペーパーで包まれた素朴な外見のキャンディーはフレッドの生家のラベンダーとはちみつのキャンディーだ。

うん

口開けろ

あーっと口を開けるとぽいっとキャンディーを投げ込んできた

ひなに餌付けしてる感がするな、いいのか。だってひよこだからひなだしな

名前がひよこなだけでひなじゃない。オトナです。

似たようなもんだろが。
自分も口にキャンディーを入れてペパーミントティーをのむ。

なにげにこの組み合わせ好きなんだよなあ

あ、わたしも!

おお。

ちょうどいいしな。ラベンダーは鎮静作用あるし。ペパーミントもだけどな。今のおまえにはうってつけだろうよ

ですね。

かえったらアルベルトに言うんだろ?

それよ。果てしなく気が重いの。

なんでだよ。自分の嫁が一生懸命がんばってんのに自分の欲の為に足引っ張るヤツじゃねえよ。

わかってるよ

まあ、でも万が一の確率のとき…その時はフォローしてやるから。まあ、言わないだろうけど。腹の底はどうか知らないけどやっぱりおめでとうっていうさ。アイツなら。

うん

フレッドは?

は?オレ?
鼻が高いし、自慢でしかない(笑)それしかねえだろ。当たり前なこというなよ。

ハハハ。

がんばって自分でそうやってきたんだからなんでこっちが口出す必要があるんだよ。そうだろ?

うん

でもな。あー、体力的な事とかに気がかりなとこもないわけじゃなあない。今以上にお前に気を配らないといけないな。は正直思ったりしたりしてる。

フレッドもよ?
オレはー…大丈夫だよ。体力が違うしな

そんなのわかんないじゃん

はいはい。気をつけますよ、可愛すぎるひよこちゃん!

あははは何よそれ

なんだよ、可愛く呼んでやったのに。

可愛いのそれ?

ならなんならいいんだよ?

別にふつーでいいじゃない

あ、そろそろ行くわ。
うん

ひよこ。
ん?
ホントにキツイときはちゃんと言うんだぞ?
約束してくれ。

何よ唐突に。

約束してくれ。

わかった

よし。

帰りしなに恒例の頭ワシワシをしていった。
やっぱこれがないとなとか言いながら。


髪を直すと朝のザワザワはだいぶ引いていた。おしゃべりが効いたのか、頭ワシワシが効いたのかペパーミントティーとラベンダーとはちみつののキャンディーがよかったのかどれかはわかんないけど。たぶん全部なんだろうけど。






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