PFSとSIB〜行政と民間のwin-winなソーシャルビジネス〜
こんにちは、180°(ワンエイティー)の上仲です。
今回は行政と民間のwin-winなソーシャルビジネスについて取り上げていきます。なお他文献を参考にすると話しがやや小難しい内容になってしまいがちのため、初見者でも理解できる表現を意識した内容で説明していきたいと思います。
私たちが作り出した社会システムはどうしても100%カバーできないことがあり、どこか歪みが生じてしまうことで様々な課題が顕在化しています。例えば雇用問題を例にすると、シングルマザー(ファザー)の働き口確保であったり、生活保護受給者のキャリア支援などがあります。このように、顕在化した社会課題の解決に向けて民間企業が取り組むことをソーシャルビジネスと呼んだり、その事業者のことを社会起業家と呼んだりします。従来からも社会貢献活動を行うNPO団体や財団法人などはありましたが、大きな違いとしては事業を行いながら利益を追求することです。
近年このようなソーシャルビジネスは沢山の事例が出てきて、起業の選択肢として社会起業家を目指す方々も増えてきました。そこで今回は官民連携によるソーシャルビジネスの取り組み『PFS(Pay for Success)以下、PFS』と『SIB(Social Impact Bond)以下、SIB』について掘り下げていくこととします。
Pay for Success(成果連動型民間委託契約方式)
冒頭に例で挙げた雇用問題のような対策としては、国民の生活を守るために国はセーフティネットを設けています。就労支援でいうとハローワークがそれに当たります。仕事をお探しの方や求人事業主の方に対して、さまざまなサービスを無償で提供する、国(厚生労働省)が運営する総合的雇用サービス機関です。
また何らかの理由で働くことが困難な人、経済的に困窮している人に対しては生活扶助、住宅扶助、子持ちシングル世帯に対しては児童扶養手当や母子加算などが支給されます。生活保護費は地方公共団体により支払われるため、居住している地域や世帯構成などによって変動はしますがおおよそ11万円〜19万円ほどの支給額となります。
このように、民間ではできない取り組みを行政が時間と労力をかけ、サポートが必要な人たちへ向けてサービス提供を行なっています。つまり言い換えると、私たちが納めている税金の一部を使用しながら行政サービスは成り立っているのです。
ただし、全ての行政サービスを質を落とさずに提供し続けるのは難しいため、地方公共団体が専門知識を有した民間事業者へ一部を委託する取り組みが行われてきました。受託した民間事業者は決められた仕様書に則り業務を実行することが求められます。しかし、このような従来型の委託事業では実施したサービスの成果に関わらず、プロセスに対して報酬を支払う仕様のため、効果が出にくいというジレンマが発生していました。行政の特性上、前年度に決められた予算を1円たりとも余すことなく使い切ることが慣用的になっているためです。
そこで、登場したコンセプトが『PFS』です。PFSとは民間事業者と行政が交わす委託契約のことで、従来型との違いは”事業の成果が出た場合にのみ報酬を支払う”ということです。これによって行政は限られた予算の中でも低リスクで事業に取り組むことができ、民間事業者は成果にコミットすることで自由な発想で事業に取り組むことが可能になります。
このように、PFSでは今起こっている社会課題へ対してお金を投入するのではなく、将来起こり得る社会課題を意識し、官民が協力した体制で将来コストを削減する取り組みが大きな特徴の1つです。
Social Impact Bond(ソーシャル・インパクト・ボンド)
PFSは行政課題(コスト)と社会課題を同時に解決するため、成果にコミットすることを目的にした民間委託契約であると上記で説明しました。しかしPFSは通常数年にかけて事業を実施するため、結果が出て報酬額が支払われるまでに長いタイムラグが発生します。つまり言い換えると、事業実施期間中は資金がどこからも入らない。サービス提供者としては数年間キャッシュが入らず事業を継続することは、大企業等でない限り難しいことだと容易に想像できます。
そこで、このファイナンス部分の問題を解決するために誕生したのが『SIB』という概念です。
SIBでは数年間に渡りサービス提供する事業者に対して投資家が資金を提供し、事業成果が上がった際には出資金+利益を投資家へ償還するといった仕組みです。PFSにおける償還元は、成果に連動した地方公共団体からの支払額等に応じて支払われます。
SIBでの投資は従来型の投資「リスク」と「リターン」という2つの軸に加えて「社会的インパクト」という第3の軸を取り入れた投資スタイルです。事業や活動の成果として生じる社会的・環境的な変化や効果を把握することが重要視されます。SIBの導入により、成果連動リスクの幅が大きな事業の実施が可能となることや、財務基盤が弱い中小企業やNPO等、成果連動リスクを負うことが難しい⺠間事業者も事業へ挑戦することが可能となります。
PFS / SIBでの課題=成果指標
ここまでPFSとSIBについて大枠の概念を説明してきました。しかしPFS/SIB導入にはまだまだ多くのハードルがあります。その中の1つで最も重要視されるのが成果指標です。PFS/SIB事業は成果に連動して地方公共団体からサービス提供者及び投資家へ報酬が支払われる仕組みです。ただ、この成果を根拠ある数字としてどのようにして算出するのか、ここが1番のポイントとなります。
これまでの民間委託事業では何を、どれだけ、行なったかという「アウトプ ット」に指標がフォーカスされてきました。一方でPFS/SIBの成果指標は何をやったかは重要ではなく、事業を行なった結果、どのような変化が現れたのかという「アウトカム」に指標がフォーカスされます。つまり、結果を出すための方法については何でもよいということでもあります。
例えば雇用問題解決における定量的指標としては、実際の就労者数や、その人々の年収額がどれだけ増加したのか、このようなことが相当するかと思われます。また行政側の指標しては、社会保障費(生活保護費など)の削減コストや、住民の年収アップによる税収額アップ等が数値として測れるものになるかと思います。
つまりのところ、PFS/SIBは長期に渡って事業を行なった先にある変化という成果をデータ化し、定量的に数値化したものを報酬として換算する必要があります。一見するとそこまで難しそうなことではありませんが、実際の行政側の現場ではそもそも将来コストを算出できる根拠あるデータが不足していることや、国内における事例や知見が少ないことから成果指標の算出がネックになることが課題とされています。
国内・海外PFS / SIBの事例
PFS/SIBは2010年イギリスで初めて生まれたコンセプトです。1年未満の短期刑で出所した人の再犯防止と刑務所収容コストの削減を目指して複合的なサービスを提供したのが始まりです。
PFS/SIBは将来起こり得る社会問題を未然に防ぐ事業に適しており、且つ、行政コストを大幅に削減できる事業にフィットします。反対にPFS/SIBが不向きな業態としては、既に社会に広く普及しているサービスであったり、成功報酬型では見合わないものなどがそれに当たります。
2010年から始まった国内・海外事例では次のようなカテゴリーにてPFS/SIBが活用されてきました。
内閣府の公式ウェブサイトでは国内外で実施されたPFS/SIBの活動報告書が公開されています。契約金額や実質支払った成果報酬額等の詳細も公開されていたりそれぞれの事業体制スキーム図等もありますので、更に詳細を知りたい方はそちらを確認されれば新たな発見があるかと思います。
内閣府 PFS事業事例集
まとめ
PFS/SIBは国内ではまだまだ黎明期ではあります。しかし、今後少子高齢化が進む日本ではこれまで以上に社会保障費が膨れ上がっていくことを考えると、官民が連携してそれぞれがwin-winな関係が築けるPFS/SIBを活用したソーシャルビジネスへ取り組むことで多くの社会課題は解消されていくことかと思います。
当方自身も生活困窮者の就労支援カテゴリーにてPFS/SIBの国内事例を作るため準備している最中です。PFS/SIBの新たな情報発信に努めると共に、自身でも官民連携によるwin-winなソーシャルビジネスのサービス提供者として取り組めるよう動いていきたいと思います。
【著者プロフィール】
180株式会社(ワンエイティー) 代表取締役 上仲 昌吾
Twitter @ShogoUenaka
情報収集に役立つ参考URL
内閣府 PFS事業事例集
社会変革推進財団
成果連動型民間委託契約方式(PFS:Pay For Success)ポータルサイト
PFS官民連携プラットフォーム
経済産業省
Social Finance UK
Social Finance US
アメリカ・カリフォルニア州・サンディエゴで4年間過ごし、あらゆる価値観に触れてきました。現在ソーシャルビジネス事業化に向け構想中です。ソーシャルグッド、サーキュラーエコノミー、ベネフィットコーポレーションを実践されている方、是非とも意見交換をさせていただければ幸いです。