クリスマスの発明家
今年もまた、この季節がやってきた。
僕ら家族の一大イベント、泣く子も黙るクリスマスである。
僕の子供は毎年、お金では買えない要求を“サンタさんへの手紙”として書いていた。
例えば、“時間を倍にする装置が欲しい”という願いがあった。
倍にはならないが、睡眠時間を活動時間へ変換できればいいと考えた。
そして、“没入枕”というものを開発した。
その枕を使えば完全に寝ている間、夢の中で自分を自由に意志を持って動かせるようにした。
この没入枕には現実世界のあらゆるものがインプットされているため、夢の中の世界も事細かく再現されている。
学校で分からなかった問題も、夢の中で再現させて復習することができる。
我ながらノーベル賞レベルの開発をしたと自負している。
息子も最初は喜んで使っていたのだが、ある時から「疲れたー。」と言って普通の枕を利用するようになった。
夢の中でも自分を操れるということは、ずっと意識は稼働しているということだからだ。
しかし、1時でも満足してくれたのは大変嬉しい。
そしてある時には、“愛情が欲しい”という願いを書いていたこともあった。
お前は“彼氏に冷たくされすぎて心身ともに疲弊した乙女”かと思ってしまったがそれはすぐ忘れた。
ふむ。“愛情”か。また難しい要求をしてくるな。
妻とも話し合った。
「今年は“愛情”と来た。はて、どうしたものかな?」
「うーん、抱きしめてあげる?」
「もう抱っことかも暫くしてないもんな。」
「でもそれだと一時的な愛情になるのかしら?」
「そんなもんなのか?シンプルに手紙なんかはどうだろうか。」
「そうしてみましょう。」
びっくりするほどシンプルな帰結。
ただ普通の手紙だと面白くないから、“飲める手紙”にした。
息子はカフェオレが好きなので、カフェオレ味だ。
まず手紙を書く。次にカフェオレを作る。最後に特殊ミキサーで混ぜる。完成である。
このカフェオレを飲むと飲んだ分だけ文字も自然と頭の中に流れ込んでくる仕組みだ。
文字を読むのが苦手な息子もこれなら僕たち夫婦の想いや愛情を受け取ってくれるだろう。
そうして息子は美味しくカフェオレを飲んだ。
飲んでから一日ほどは満足げな表情をして嬉しそうに過ごしていたが、ある時トイレに行ってから後は、いつも通りの表情に戻った。
文字ごと出したのであろう。
そんなこんなで僕は息子のサンタとして力の限りを尽くしてきた。
今年はどんな手紙を書いたのだろうか。
恐る恐る息子が書いた手紙を見る。
“亡くなった偉人たちと話してみたい”
と書かれていた。
またもや無理難題である。
しかし今回は素早く対応できた。
没入枕の応用だ。没入枕の意識の世界で偉人たちを人間として生活させた。人物像はネットやらAIやらを駆使してなんとか形を作った。
あとはその枕で寝て、会って話をするだけだ。
息子も最初は、「またこの枕ー?」としょげた顔をしていたが、実際使ってみると面白かったらしく、ご満悦であった。
息子がその枕を使ってどんなふうに過ごしているかが気になったため、僕も枕を利用してその世界に侵入してみた。
すると息子は、ジャンヌダルクやマザーテレサ、卑弥呼など女性だけとお話をしていた。
もしかすると生粋の女性好きに育つのかもしれないと、幾分かの不安を抱いた。
ただ息子のおかげで、いろいろなものを発明出来、そのお金で今も暮らしていけている。
これは一つの試練ではあるが、それを超えて、家族で食べるクリスマスケーキは格別な味がする。
ひとまず今年も家族みんなで元気にクリスマスが迎えられたことに乾杯。
家族3人、声高らかに言った。
「メリークリスマス!」
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