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ゴミはゴミ箱に

“ゴミはゴミ箱に”というゴミ箱が売られ始めたのはつい最近のことだ。

その名の通りすぎる商品名に意表を突かれた面白いもの好きな人たちはこぞってこのゴミ箱を買っていた。

もちろんその中の1人は僕という訳だ。

ゴミ箱のデザインはシンプルで僕もこのゴミ箱を買った。

このゴミ箱には注意点が2つあった。

ひとつは、このゴミ箱に捨てたものはもう二度と取り戻せないということ。

ひとつは、1日に最低一回ゴミを捨てなければ、ランダムで何かがゴミ箱に捨てられること。

なにやら怪しいなと思う反面、普通では無いからこそ惹かれている自分もいる。

早速鼻を噛んでティッシュをそのゴミ箱に捨ててみた。

すると捨てる瞬間ゴミ箱に底が無くなり遥か彼方へとティッシュは消えていくのであった。

成程。

二度と取り戻せないとはこのことか。鼻水ティッシュを取り戻そうとは思わないからなんの問題もない。

気になるのはもうひとつの注意点に書いてあったことだ。

このゴミ箱が発売されたことによって、“ゴミ箱系YouTuber”という種族の人が誕生した。

その人たちがどんな内容の投稿をしているかというと、ゴミ箱に何も捨てずに1日過ごした時に、何が捨てられるのかという実験動画だ。

シャーペンの時もあれば、コップの時もある。全く読まなくなった漫画本の時もあれば、スマートフォンが捨てられたこともあった。

本当にランダムである。

その動画を見ていると僕もしたくなってくる。

ある日、完全に何も捨ててなかった日が訪れた。

日付を超えた瞬間に“それ”は捨てられた。

初めての、ランダムで選ばれたものがまさか“それ”だったとは。

概念のようなものも捨てられるのだな。

僕は流石に、“それ”を失ってしまったら日常生活で何かと困ると思い、“ゴミはゴミ箱に”のコールセンターに直ぐに電話した。

「もしもし。ちょっと困ったことがありまして、相談したいのですが、、、。」
『承ります。どうしましたか?』
「捨ててはならないものを勝手に捨てられてしまいました。」
『分かりました。まずはお客様のお名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?』
「名乗る名がありません。」
『というと?』
「名前を捨てられました。」
『そうなんですね!お客様はラッキーかもしれません。概念をランダムで捨てるゴミ箱は初めて聞きました。おそらくランダムに何か捨てられる時は、概念が捨てられます。それはそうそう起こることではございません。』
「いや、そういうことではなくて、名前は戻ってこないんですか?」
『はい。捨ててしまったものは二度と戻せません。』

そしてその日から概念が次々と捨てられていった。もうどうでもいいと思って何も捨ててなかったのだ。

ストレス、夢、食欲などあらゆるものが捨てられて自分の中から無くなっていった。

そして心なしか、ゴミ箱は大きくなっていっているような気がした。

-宇宙のとある星-

ゴミ箱型の“空間転送装置”が完成した。

これを資源豊かな“地球”にばら撒き、物を捨ててもらうことで、私たちの星を豊かにしていこう。

そう決定し、ゴミ箱をばら撒いてから一週間でたんまり色々な物資がこの星に転送されてくる。

そういえば今日、“名前”が転送されてきたな。

よし、この星にはまだ名前がなかったからその名前にしよう。

こうして“太陽”という星が誕生した。

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