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今年みた最初の月は、昼の月だった。

きっと、いい一年になる。

いや、ならなきゃおかしい。

そう信じて、スキップみたいな軽やかさではなくハードル走のように、ある種逃げるように駆け抜けながら年を越した。

2023年の新年を迎える前、それはそれは壮絶な年末だった。
失恋と愛猫の死。
おまけにBluetoothイヤホンとiQOSの失踪。
メンタル崩壊からの免疫低下でインフルエンザ。

立て続けに不遇な事柄が襲い掛かり、IKKOさんも脳内にこんにちは。
あとはプリキュアのAメロ。
一難去ってまた一難。ぶっちゃけありえない。

辛いものが大好物とはいえ、ここまで辛いことが重なると。
さすがにこっから上昇気流でしょ、なんて心持ちで年末年始を過ごした。
しばらくは、いい事しか起こらないはず。


年末に残ったやることは済ませて、友人とも昼から飲み歩いて。大晦日を越して、一月二日まではいいスタートを切れた。

実家で家族と過ごして、美味しいご飯と美味しいお酒。かわいい甥っ子。
二日は江ノ島と鎌倉を満喫して、おみくじも中吉とまずまず。
溜めてたドラマを一気見。
silent/今際の国のアリス/初恋。最高。

悪くない。いい調子。

三が日最後の日は、空気も透き通る、雲ひとつない快晴。
この日は、友人に誘われてフットサルがある。2023年初蹴り。
運動もできるなんて。健康的で最高のスタート。

昼ごはんを済ませて、時間があったので散歩をしてカフェへ。なんて有意義な休日。これからボールも蹴れる。

いける。今日の自分。

カフェでまったりしている間、音楽を聴いてカフェラテを啜っていると、坂本龍一の"fullmoon"が流れてきた。

聴いたことない人のために冒頭を引用する。

Because we don't know when we will die
We get to think of life as an inexhaustible well
Yet everything happens only a certain number of times
And a very small number, really
How many more times will you remember
A certain afternoon of your childhood
Some afternoon that is so deeply a part of your being
That you can't even conceive your life without it?
Perhaps four or five times more
Perhaps not even that
How many more times will you watch the full moon rise?
Perhaps twenty, and yet it all seems limitless

これは、坂本龍一が劇場音楽を担当した映画で、『ラストエンペラー』でも知られるベルナルド・ベルトルッチ監督作品『シェルタリング・スカイ』のラストシーンで語られる台詞を曲の中に引用している。

Wikipediaリンク

劇中歌にもなっている"The Sheltering Sky"も素敵なのでぜひ。


旅をしている夫婦の話で、ギクシャクした二人の関係性や、同行する男との不倫関係がありつつも、旅先の砂漠の街で病気にかかり、二人は愛を確かめ合うも…
というような物語の最後に語られる台詞が印象的で、カフェラテを飲みながら調べて読み返していた。以下、先ほどの英文の和訳。

人は自分の死を予知できず、人生を尽きせぬ泉だと思う。だが、物事はすべて数回起こるか起こらないかだ。
自分の人生を左右したと思えるほど大切な子供の頃の思い出も、あと何回心に思い浮かべるか?
せいぜい4、5回思い出すくらいだ。
あと何回満月を眺めるか?
せいぜい20回だろう。
だが、人は無限の機会があると思い込んでいる。

翻訳参照

まだ何度でも会う機会があると思っても、意外と会えなかったりする。
年末年始ぐらいしか実家に帰って親に会わない、なんて人たちも残りの人生でほんの数回しかチャンスはないかもしれない。
親や祖父母が生きてる人はあっておいた方がいい。当たり前のことだけど。

飼い猫の死もあっただけに、自分の中でも余計に考えさせられた。


fullmoonを聴いたからなのか、カフェから代々木公園のフットサル場まで向かう道中、こぼす涙はなかったけれど、上を向いて歩いていた。

月が出ていた。
まだ15時を過ぎたぐらいの青空の真ん中に、少し欠けた月。

そういえば、これが2023年はじめて見た月だ、とふと思う。

人生であと何回、昼の月を眺めるんだろう。

なんて考えながら、大きな公園の側道を歩いて向かった。



フットサルは全員が顔見知りではなく、知人同士で誘い合った会だった。
その中に、3年前ぶりぐらいに大学時代の友人もいて、久しぶりに再会。
もっと自分から積極的に会う機会を増やそう。
映画の台詞を思い返し、新年初の球蹴り開始。

いやあ。なんて(いい)日だ───。




でもさすがに、これじゃ終わらない。

映画の台詞に想いを馳せて、もっと人と会おう、いい休日でした。
そんなに、気持ちよく一日を終わらせてくれないのが、我が人生。

新年、怪我だけは本当に避けたいって、誰しもが思っていた。だから準備運動もした。足首も相当回した。一時間ぐらい試合もこなして、身体もすっかり温まってる。

なのに、なんで───。


最近、多くの人がワールドカップでトップオブトップのサッカープレーを目の当たりにしていたから、考えられないかもしれない。
ましてや、日本代表の選手が少しのミスをするぐらいで、ヤジを飛ばしたり文句をいう人がネット上に散見された。

そんな人たちが見たら、高らかに嘲笑われるだろう。いや。実際そんな人たちが見なくても、誰でも笑うしかない出来事が起きる。

フットサルのゲーム中。
スピードに乗ったドリブルで、右アウトサイドでボールを突いて完全に相手をかわしきったと思った瞬間。

ボールはつつけず、玉乗りピエロのごとく右足がボールの上に。
ピエロじゃないから、乗っかったままではいられない。地球が一周した。

要は、転けた。盛大に。激しく、ダサく。

久しぶりに動くと、ボールの上乗っちゃって足首ひねるなんてよくある事だし、普通は軽い捻挫ぐらいで済む。もしくは、全然何もなく立ち上がってプレーできる。
普通なら。

もう、アラサーの足首は硬くなってるんだ。
みなさん、あまり運動してない人は、驕り高ぶらず、無理せずに。

しばらく疼くまった。
ネイマールぶって時間をかけてるわけじゃない。
マジのガチの真剣に本気で絶対にどうやっても、立ち上がれなかった。

今まで何度も怪我をしてきたことはある。
捻挫も骨折も半月板損傷も左膝後十字靭帯の断裂も経験してる。
(膝は今も靭帯切れたまま。)

でも、これは…。

ちょっとやばいんじゃぁなかろうか。

一瞬でわかった。


もちろん、そのままフットサルに復帰できず。
周りの人の助けもあって、応急処置のアイシングをして。なんとかタクシーに乗せてもらって、家に帰ることはできた。

どうしても歩けず、アラサーの男同士だったけど、おんぶして運んでもらう。

こんな機会、数えるほどもないでしょう。
本当にありがとう。


家についてからが、本当の地獄だった。
独身男性の怪我は、何よりもひどい。
インフルも辛かったし、コロナに罹患したこともある。
たしかに、どっちも独りではきつかった。
尾崎放哉と同じように孤独を身に染みた。

咳をしても一人


けど、病気なんて比じゃない。
何倍もひどい。

トイレにいくのも、悶えながら、叫びながら。
歯磨きもきつい。
というか今の部屋に段差が多すぎる。
築年数60年。
リフォーム済みとはいえ、バリアフリーなんて言葉がない時代なのか。

けんけんで飛び越えるしかない。というか移動が全部けんけん。
「けんけんぱっ」までがひとセットなはずのに、無限けんけん。

ベイブレードのバネのやつみたいに何度も跳ねる。どちらかというと卯年か。ぴょんぴょん跳ねるたびに、浮かせている右足は揺れる。
痛い。

何もしてなくても痛い。動いたらそりゃ痛い。
「いってぇぇぇぇぇ」
10回以上は叫んでいた。
隣の人、ごめんなさい。

シャワーも、いつもの5倍ぐらい時間がかかる。
怪我した時のために浴室はセッティングされていない。この部屋の浴室を今見つけたら、速攻で左スワイプ間違いなし。

特殊メイク並みに時間を費やして、一生懸命に洗ったはいいものの、浴室を出てから気づく。
着替えを持ってくるのを忘れた。

風呂場で悶え苦しんだせいで、もうけんけんもできないぐらい痛い。

着替えはない。

足は痛い。


気がつくと、アラサー男性が全裸で家の中をハイハイしていた。


こんな機会、きっともう二度とないだろう。

いや、あってほしくない。



そんなこんなで、翌日病院に行った。
レントゲンにはっきりと映らなかったが、医者の見立てでは右足首の外側にある3つの靭帯のうち、3つとも全部切れてるんじゃないか。
ということだった。

参照元

ここまでくるとさすがに。

あっぱれ。熱盛。

年末からの不遇が、新年に飛び越してきた。
いや、君たちは年越ししなくていいんだよ。

逃げ切れなかった。捕まった。


とはいえ。さすがに。今度こそ。

こっから上がってくしかない一年だと信じて、強く生きていきたい。

掃除なんてできるわけないので、床に散らばってます


こんな大怪我をする機会も、これからほとんどないだろう。

2023年。

印象的な開幕。

昼の月を、見上げた日。


ハードモードな一年、よろしくお願いします。




稲熊





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