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ゼンマイ仕掛けを愛でる(腕時計編)①

時代はデジタルで、音楽もレコードからカセットテープへと変わり、今やCDどころかネット配信がメインとなっている。

時間を知るのもスマホで足りる人が殆どで、今どき腕時計自体を付けていない人も多い。逆に腕に付けるスタイルに拘るのであれば、スマートウォッチであれば機能の豊富さは従来の腕時計の比ではない。

そんな中で私はアナログな機械モノに嵌っている。

ゼンマイで動くものとか大好きで、腕時計は腕を振って巻き上げる自動巻き・ねじを巻く手巻き式、と機械式の物をいくつか所有しているし、手巻きのオルゴールも好きで海外製の物も含め3つほど持っている。

こういう拘るモノについて語ると話が長くなるので(笑)、まずは自分がなぜ今の腕時計を所有する考えに至ったのかについて、2回に分けて話をしてみようと思う。

とは言え、私は腕時計のアンチを説き伏せる気など無く、腕時計・・・ましてや機械式の優位性を語るつもりもない。単純に腕時計に嵌った理由(物語)と思ってもらえれば幸いだ。

きっかけは小学生の頃。父からクォーツ時計を新調した際に不要になったシチズンの自動巻き腕時計を譲ってもらい、そのままオモチャ箱の中にしまい忘れていたのを、社会人になって荷物の整理をしていて偶然発見。「おー懐かしい!」と思い振ってみたら20年以上も経っていたのに、何事もなく普通に動き出したことでビックリし感動したのが原点。

もしかしたらその瞬間、時計に普遍的なものを感じたのかもしれない。

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(写真:50年以上動いてるシチズン・オートデーター7 自動巻き)

実際、高精度で電池を使って動くクォーツ時計も正確さの上で必要な動力方式だと思っているし、電池が切れたり中のムーブメントが壊れても中身を交換すれば良いだけの話なので、巷で言うほどクォーツ時計は一生モノと言えないと思えない。ただ、スポーツをしたりバイクに乗る際は動力が安定しているクォーツ時計は必需品だし、手首を返すだけで時間が分かる腕時計は便利なアイテムだと言えるが、購入層は腕時計に対して消耗品としての実用性を求めている人が多いように思える。それに対して、自分も含め機械式の腕時計にはロマンや物語を求めている部分が否めないし、デザイン的な好みや満足感を求めているような気もする。

例として、まずは冒頭の写真にある時計について簡単に語りたいと思う。

ブランド名はZENITH(ゼニス)。

1865年創業のスイスの時計ブランドで、写真に写っているムーブメント(ぜんまい部分)は「エル・プリメロ」という固有名詞が付いた50年以上も構造が変わらない自動巻きの機械。

このエル・プリメロにはとても稀有な物語がある。通常のムーブメントはゼンマイで動く振り子が1時間に21,600から28,800振動するのだが、このエル・プリメロは36,000振動という世界一高速で振動する画期的なクロノグラフの機械として開発された。ところが、私が腕時計を父から譲ってもらったきっかけにもなったクォーツ時計を1969年にセイコー社が発表した年と同時に生まれたために、せっかく世界初で世界一という称号を得たのにクォーツショックと言われる時計産業の変革の波にのまれ、経営不振からゼニス社は企業買収の憂き目にあってしまう。

買収元の経営方針は機械式時計の製造停止と図面や金型の破棄。ところが、当時の技術者シャルル・ベルモは命令に反して破棄せず、図面や金型を靴箱にしまった上、工場の屋根裏に隠すと言う勇気ある行動に出る。時は流れ、再び別会社だが理解ある資本元に買収されたゼニス社はシャルル・ベルモの英断により残されていたエル・プリメロの資料を基に機械式時計の製造を復活させるのである。その後、この復活した機械(エル・プリメロ)が優秀な証として、他メーカーに次々に供給され認知度が上がったために価格もどんどん上がっていき、最終的にゼニス社はラグジュアリーなLVMHの傘下に収まっている。

そんな経緯を知ったことで遠からず縁を感じ、末永く使えるデザインを求めた結果この時計に辿り着き、高級路線に突入する前の18年前に購入したのである。

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色や雰囲気も腕時計に興味を持つきっかけになったシチズンに似ているが、ムーブメントは歴史あるエル・プリメロが内蔵されていてシースルーバックから眺める事が出来る。見ていて単純に「美しい」と思えるので飽きる事がないし、これからもずっと長く使えると思う。

では、機械式時計はこのようなフォーマルな時計が全てなのかと言うとそうでもない。なので次回は、「腕時計」として別の切り口から話をしてみたい。


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