アイアン・クロー（父の掌）　　川柳108句

Ⅰ．白鳥の演歌　　二十四句

Ｂ作をえいえんに撲つギムナジウム

白鳥をＮＨＫが煮て世界

ただの苦をミネソタ州とかえてゆく

天人がかぼす潰している校歌

白痴美のしょう油壜よりしょう油洩れ

老ゆる苦をベスト電機に貼りあわせ

後漢書をわすれつつある老ゆる楽

狂人の毬藻のほかになにもなし

もやしから関所破りのひげ根抜く

周作が或るモノリスと章魚をみる

苦の世界揚がるフレンチクルーラー

祝詞うけマッハ隼人に春夕焼

妻として妻みるときの糞掃衣

変容のきぬがさ丼が誤配され

あだ討ちの魔女の宅急便とめる

論理はてずうっとつづく辰野町

馬鹿貝をひかりのくにに見うしなう

黄門の夜尿のたびに研ぐナイフ

背後からヴィスコンティの女坂

汐留に犬と犬とがらせんする

虚無僧が虚無僧をおる三次元

冒頭へ折り紙雑誌すてにゆく

物体に物体貼られ関所跡

なわばしご安田忠夫の鳥をみる

Ⅱ．憂国のベッドタウン　　五十句

火の鳥が狂いはじめる美鉛筆

隊員がエミール・ゾラの膝を描く

うつし世のコン＝ティキ号がうきあがる

仮の世の飼い主かわる小鳥飼う

桔梗屋の打製石器が盗られ春

くんせいが珍惑星にない正午

けずりぶしけずるジャネット・ジャクソン等

検屍医がラ行を言っているだけの

陽が落ちてワーズワースのただごと句

ペンギンがまっ赤にみえる台所

郎党が二次創作のそばを打つ

わさび抜くはるかに遠い変電所

螺子折れてメカごんぎつね崩れおつ

縄文字が会田誠をしめす春

シューティング・ゲームの高野豆腐われ

因果なく林檎をおとすギタリスト

卒塔婆ふりまわす意味でのエリック家

残酷絵猪苗代湖に阿Ｑおち

プーさんがおぼえはじめる鏡文字

自傷する日本アパッチ族の裔

映像の世紀に巫女の役きめる

憂国のベッドタウンに鵺の影

浴槽にみつける地方公務員

オードリー・ヘップバーンの烏賊単位

烏丸に鯉あらわれる動静画

ちくわぶにかえってこない自我をもて

ながい午後異常心理に鯉をみる

神田川ふきんの罪と罰金と

おし黙る金魚の森に巣箱かけ

かけうどん個人の詩語がきわまって

天と地と勘ピューターに打つオセロ

雨がふる愛染かつら能記して

マルクスとその他のひとの水餃子