荒馬と女（あぶらだこ） 川柳90句
球体の青年が立つあぶらだこ
仮の世の北斗の拳にすべて昼
この世陥ちおかきの塔のそびえたつ
課長らと半蔵門に生きる河馬
くらやみにわたしがありぬ肉ばなれ
肉ばなれしてトナカイの糞おちる
旋盤にラプラスの魔のありのまま
偽の雨に名まえをなくす氷川丸
木にむけて抄訳される現代詩
ポマトもぐおまえの爪ものびたのか
エジソンが無色のままに立っている
ポケットへ善意の竜を入れておく
泣きながらあらゆる部屋に土井たか子
稲荷社に牛をみにゆく願望句
黙示してはっきり痰のようなもの
手妻師のはがきを燃やす牛丼屋
この星の鯛をモールス信号し
亀虫が夜に這いずる五島勉
変装の眉がはがれてゆく浄土
八百屋との境界線に輪廻して
晴れてゆくオカルティズムのかばん買い
シミュラクラ文章題がかたちなす
入定にコスモ石油のスモうかぶ
徒歩旅行うかつに石の名をつける
蛙屋の言語変態してゆけば
川岸に鰐の盗用疑惑する
蜜を買う家族ゲームに寿司終わり
鍛冶屋からラスプーチンの像消える
北極にちかい街から鍋を買う
自我として赤いにしんを置く赤子
チャネラーが雲型定規みて無言
禅僧のなかからひびく解氷期
徳川を名のるおとこに蜘蛛の主語
目つむればデータ野球となる峠
破れ傘オフィシャルサイトとじにゆく
美としてのキング・コングのくりかえし
他殺して水溶液がきょうは濃い
内陸のいたる所に鰻塚
造季語にたま出版のたま爆ぜる
市を出れば三角錐を男撫ぜ
弱法師に美空ひばりのカーディガン
分数とおもう社訓をみなうつし
春がすみ胃の大学の門扉あけ
タバスコを日本時間にかぞえだす
妻子への連絡帳にひかりごけ
御家人の頭食みあう地獄犬
きゅうり入りパンの煉獄編つづく
不条理の飴が曲がっている夜景
総統の薪割られる肛門期
レバ埋めてアイアンマンの潮干狩
猿山を狂ったひとと撫ぜにゆく
父の名の神奈川県があるところ
飛ぶ猿をみつめて盲う春の空
アンドレ・ザ・ジャイアントとの蕎麦を読む
エロス論世界のなかに世界鍋
海牛にかかわっている箱男
ルルイエや春に完全言語成る
殿中のナゲットを買う浦島家
カスパール・ハウザーの持つ小国旗
読心の器官めばえる春のこと
時間塔鶴屋南北ひもむすぶ
昭如が時間の滝と撮られつつ
禁錮するシンドバッドに二人称
あながちに春コート着る生者死者
大老の角川文庫二冊積む
へら鹿にまつわる枷をとりあげる
産婆来てそのまま帰る春の雪
ユカタンが半島だった産婆術
みずからにノギス持ち寄る男塾
永き日のパーテーションの質量や
河馬おおき三月尽の停車駅
ワシコフにあらずや河馬にみつめられ
河馬つがうはじめて美味きミントティー
動線にライト・ノヴェルが散逸し
糞をして神学論に勝っている
爪かんで横川川にオイディプス
川越の相撲部隊が春に散る
後漢書のトートロジーに妻かえる
春うららボーイ・ジョージののどちんこ
どん底に少女仮面の蚕飼う
佯狂や首長竜の首長し
器官なきマウンティングをされて春
密室の父王がいる言葉狩り
ガウディも死んだいか釣り漁船燃え
城を出て辿る少年チャンピオン
はくちょうとみにくいテリー・ファンクの仔
ウンベルト・エーコのえがくやよい軒
波平もフネもあつめるさざれ石
おぼろげのソングマスター絶えてより
バタイユのいっしゅん燃ゆるかなづかひ
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