作品名 『 天使。 』 雨野空。25歳。ごく普通のサラリーマン。 ブラック企業に務める彼は、自宅のベランダから飛び降りようとしたその時、真っ黒な翼を持つ少年と出会う。少年は自らを『天使』と名乗り、雨野の自殺を止め、同じことをしないよう一年間監視するという。 『天使』の目的はなにか。 『天使』とはなんなのか。 雨野空は生きるべきか。 それとも、死ぬべきだったか。 これは、真っ黒天使と死にたがりの話。
「バカかよ」 「うるせぇ……」 アマツカからド直球に罵られながら、デスクに突っ伏して馬鹿でかい溜息をつく。 仕事を終えて家に帰ってからも、寝る間も惜しんで頭を回転させて考えたものの、どうすれば自殺を止められるか全くもって思いつかなかった。しかも気づいたら外が明るくなっていて、そのまま一睡もせずに出社することになってしまった。ひとまず瑞雲さんはいつも通り出社してきたので、一安心なのだが。 「思いつかなくて当然だ。死にたい側のおまえが、同じ側の人間を助けるなんて出来るわけな
「なあアマノ、辞めれば?」 朝起きて、ご飯を食べて、支度をして、電車に乗って。憂鬱な朝をなんとか乗り切ろうと懸命に耐える俺の耳元で、アマツカがそう囁いてくる。 しつこく囁いてくるせいですっかり聞き慣れてしまったが、それでも苛立たないわけではない。日が経つにつれ本格的に暑くなってきた気候のせいで、少しピリピリしているということもあるが。 「辞めちまえよ、あんな会社。そのままじゃロクな人生にならないぞ」 「辞められるならとっくに辞めてるよ」 この会話も何度目か分からない。
夢、かと思った。 花弁のように、はらはらと舞い降る真っ黒な羽根。その中央で真っ赤な瞳を光らせながらジッとこちらを見つめているソイツ。窓の外が夕暮れで満ちているのも相まって、その姿はさながら美しい烏の如く。 「いや、勝手に死なれちゃ困るんだけど」 烏が鳴く。淡々と冷酷に落とされた声に、言葉が詰まる。ただひたすら、離しかけていたベランダの欄干を、後ろ手に握り直すことしかできなかった。 冷酷悪魔? と 一般青年? の話 刹那、ふわりと身体が浮いて、声を上げるよりも先に部屋