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ショートショート『おみくじ』

新年、明けましておめでとうございます。
旧年中はたいへんお世話になりました。

今年もどうぞよろしくお願い致します。


正月ショートショート『おみくじ』


私は諏訪神社に初詣に行き、おみくじを一枚ひいた。 

境内は初詣の人たちで、アリの巣のようだ。 
日ごろは姿をみせない神職や巫女の姿がみえた。 

いつもは参拝すると晴れ晴れとした気分になるのだが、今日は元日だというのに、朝から父とささいなことで口喧嘩をし、とても気分が悪かった。今年の春に結婚する私の彼氏の話をしたら、なにやら気まずい雰囲気になり、元旦からそんな話は聞きたくないと父から言われて、カチンときてしまったのだ。 

母が亡くなってから十年。父と二人暮らしの日々を続けてきた。 
産土神社への参拝をかかさず、産土神社は、生涯の守り神なんだからが口ぐせだった母。 
難病になっても最後まで苦悩する姿をみせずに、毅然とした態度で死出の旅立ちに向かう母の姿に、私も父も心打たれ、以来、私や父もときおり、近くの諏訪神社に参拝をし、生まれた土地の産土神社へも、年になんどか参拝するようになっていた。 

参拝のおりにはときおりおみくじをひく。 
私にとってはたんなる占いではない。諏訪神社境内に祭られている祭神。諏訪大神、溝口大祖神のお言葉だと思い、神妙な気持ちでいただいている。 

神社参拝をするようになってからは、強情だった私が、まえより素直になったようで、ときおり帰省してくる姉妹たちからは、大人になったわねと言われるようになった。 

私は家に帰り、ただいまも言わずに自分の部屋にはいり、おみくじの封をひらいた。
〈中吉。これまでの幸運があるのは、皆祖先や親たちの積んだ徳の報いなので安心せず、親や人を慈しみなさい。〉とある。 

私は少なからず動揺した。 
今朝の出来事と今のおみくじの符合に驚いたからだ。偶然といえば偶然だが、なにか不思議なお諭しに思えた。 
父もそのあと外出したようだ。たぶん初詣に行ったのだろう。 

私はそのあと気分をかえて、父の好きなお雑煮をつくることにした。思えば、父は私や姉妹を育てるのにどれだけ苦労をしたかわからない。母のために仕事をやめて懸命に看病をし、そして母の最後を見取った。私は父の心根を察っすることもなく、不注意な話をしてしまったのだろう。
 

父が帰宅した。台所にはいってきた父が、「今朝は悪かったな」 と、なにやら神妙な顔で話しかけてきた。「私も悪かったわ。お雑煮でも食べて仲直りしましょう」 

二人で正月番組をみながら、お雑煮を口にはこぶ。自分でつくっていながらとてもおいしく感じられる。なんといっても母の味を継いでいるのだからあたりまえか。

「今日はへんに素直なのね」

「おまえだってそうじゃないか」 

二人して、照れ臭そうに頭をかく。 お雑煮を食べながら、私はおみくじの話をした。 

父はその話を聞くと、「実はな、俺もおみくじをひいたんだが、子供は宝だから、大切にしなさいと書かれていたんだよ」 と、少し驚いたような顔をして言った。

「神社の神様が、二人の仲裁にはいってくれたのね」

「どうもそうらしい。不思議なこともあるものだ……。ああ、しかし、おまえのお雑煮を食べられるのも、これが最後なんだなぁ」 

と、ため息まじりに父が言う。

「私が結婚しても、お雑煮をつくりに家に帰ってきてあげるわ」 

私は少し涙ぐみながらも、笑顔をつくり、父にお雑煮のおかわりをよそった。

            (了)

あなたの夢が叶いますように。

あなたが愛を手に入れられますように。

あなたが幸せな日々を過ごされますように。

ありがとうございます。

※画像は「ぱくたそフリー素材さま」より。
すしぱくさまの作品です。


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