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詩『手のひら』

        
昨日 手相をみてもらったの 
私 運命線がないんですってとなにやら楽しそうに話す 
そんな彼女を おさな子でもみるような想いでみつめる 

運命線がないことがなぜうれしいのか 
ぼくにはわかっているからなにもたずねない

彼女の手のひらには 
人生の迷路がいくつも刻まれている

あの日 夕暮れ時に 
迷路の中の交差点でふたりは出逢った 
信号待ちのわずかな時間 
信号が青になると 
いつのまにか彼女は夕闇のなかに消えていた

ぼくはあわてて彼女の行方を捜し求める 
彼女の姿はどこにもみあたらない

そんなある日 迷路の壁に埋まっている女性の手をみつけた 
ぼくは彼女の手だとすぐにわかった 
そして力強くその手をひいた

たよりなさげな 
くねった細い道 
硝子のようにこわれやすく 
木の葉のようにたやすく風にゆれる彼女の心のようだ 

ぼくは彼女の手をとって 
ぼく自身の存在をみつけてやろうと目をこらす 
ふたりが出逢った頃はこのあたりかな 
指でなぞって 一瞬だけ運命線をひいた 

手のひらがおだやかに赤みをおびてくる 

小さな手が寂しそうで 
ぼくは思わず彼女の手を強く握りしめてから 
ふたりの道を重ねようと 
彼女の手のひらに 
ぼくの手のひらを
そっとあわせてみた

        (了)

画像は「ぱくたそフリー素材さま」より。
『はろ』さんの作品です。

以前、アップした詩ですが、削除していたみたいなので改めて。

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