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父が死んだ 2

2020年10月24日に父が死んだ。最後に会ったのは、その一年前だ。

父は、もともと無口な人で、いわゆる昭和のお父さんそのもので、娘に電話をかけるような人ではなかった。でも、私とは時々電話で話した。「大雨が降ってるみたいだけど、大丈夫?」とか「誕生日おめでとう。」とか、他愛もない、だけど温かい家族の会話だった。10月6日は、父の誕生日だ。毎年、誕生日には電話して「おめでとう」を言い合っていたのに、2019年の誕生日はバタバタしていて電話できず、それから一年間、なんとなくお互い電話しそびれて、ほぼ話をしなかった。遠慮深い父だったから、私の忙しさを思って、父からは電話できなかったのだと思う。それを今、とても悔いている。

2020年の父の誕生日、久しぶりに電話すると、父は病院にいた。「今入院している。心配かけるから言わないでおいた。」と父は言い、「そりゃ心配はするよ。」と返すと、はははと笑った。「10月14日に手術の予定だけど、ま、大丈夫だから、また連絡する。」そう言って電話は終わった。

実は、その数日前に、母に用事があって電話した時、父に病気が見つかったことは聞いていた。詳しく聞こうとすると、母は言葉を濁した。父に口止めされているとのことだった。「お父さんが直接話すって言ってるから。」と言うので、父の誕生日に電話で病状を尋ねたが、結局父は詳しい病状は話さず「心配するな。」だけ繰り返した。

10月13日に、また父に電話した。手術の前日に喋りたかったのだ。いつもと変わらない口ぶりで父は、「お母さんの勘違いで、手術は別の日だった。今日は病院に行っただけで、今は家におる」と。この時もまだ、私は父の病状を詳しく知らなかった。母は「お父さんが自分から話すって言うからお父さんから聞いて。」と言うし、父は「大したことない。心配するな。」と言う。「大丈夫だから、また電話する。」と、電話は切れた。

その後、約束の電話がかかってくることはなかった。これが最後の会話になったのだ。

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