労働判例を読む#224

【日本電産トーソク事件】東京地裁R2.2.19判決(労判1226.72)
(2021.1.28初掲載)

 この事案は、採用から諭旨解雇・普通解雇されるまでの6年弱の間に6つの部門に配属され、それぞれで問題行動を起こしてきた元従業員Xが、諭旨解雇・普通解雇を無効と主張した事案で、裁判所は、諭旨解雇を無効としつつ、普通解雇を有効としました。

1.諭旨解雇

 諭旨解雇に関し、裁判所は、懲戒解雇と同様、相当性を厳格に判断する(労契法15条)という解釈を示しました。諭旨解雇も、懲戒事由として定められており、従業員の意向に反して解雇する点で同じだからです。

 そのうえで、裁判所は、Xの様々な問題行為が、就業規則の定める懲戒事由(職務上の指示命令に従わず、職場の秩序を乱すとき)に該当すると認定したものの、初めての懲戒処分でいきなり諭旨解雇にするのは「やや重きに失する」として、無効としました。

2.普通解雇

 他方、普通解雇について、裁判所は、職場秩序を乱す問題行動が継続的に繰り返されて、しかも、改善の余地がない、という認定を前提に、客観的合理的理由・社会通念上の相当性(労契法16条)を肯定しました。上司の指導や、任せられる仕事を試すための配転など、会社側の対応が十分だったことが、重く見られているようです。

3.両者の違い

 さて、両者の違いはどこから生じたのでしょうか。

 1つ目の視点は、程度の違いです。

 つまり、懲戒解雇ほど悪質ではないが、普通解雇ほど悪質、という評価です。

 けれども、判決では、両者の悪質性の程度を比較しているわけではありません。一般論としては、程度の差であると総括できるでしょうが、実際の判断の分かれ目を分析し、今後の判断や実務に役立つポイントを見出すのであれば、より具体的なポイントを考えるべきです。

 そこで、2つ目の視点ですが、プロセスです。

 これは、諭旨解雇が初めての懲戒処分である点を指摘しているところから、1つの判断要素として考慮されていると評価できます。

 3つ目の視点は、懲戒処分と解雇の法的性格の違いです。

 すなわち、懲戒処分は人事権に基づく懲罰であり、企業秩序などが害された場合に、それを回復するための手段として認められています。したがってここでは、企業秩序の侵害の程度がポイントになります。

 他方、解雇は労働契約の解除です。つまり、Xの債務不履行や履行不能が要件であり、裁判所がXの改善余地がないことを問題にしている点が、今後の債務の提供が不能であるという履行不能と同様の判断方法を取っていると評価できます。

 4つ目の視点は、解雇通知の方法です。

 この事案で、Yは、諭旨解雇の際には、特に悪質な言動に限って懲戒事由として列挙していましたが、普通解雇の際には、幅広い事情を記載していたようです。懲戒解雇の場合には、懲戒解雇の通知書に記載された懲戒事由だけしか考慮することができず、その後に懲戒事由を追加することはできない、とされていますから、判断の基礎となる事情が諭旨解雇の場合に狭くなってしまい、結果に影響を与えている、と考えられるのです。

 この場合、普通解雇の根拠とされた事情も懲戒事由になりえた、と言えるかどうかが問題になりますが、Xに適用された懲戒事由が指示命令不服従・職場秩序違反、という幅広い概念であり、普通解雇に関して主張検討された事情も、その多くが懲戒事由になりえたように思われます。

4.実務上のポイント

 ここでは、諭旨解雇・懲戒解雇の無効を回避する、という観点から逆算しましょう。

 まず、プロセスです。

 十分機会を与える、というプロセスを重視する裁判例は他にも多く見かけます。Yは、Xの問題行動に対し、忍耐強く対応してきましたが、それ自体は良いとしても、警告を与えない、ということは問題です。警告を与えると、それに対する抵抗や反抗が怖く、面倒くさくなり、我慢してしまう管理職者が非常に多くいます。自分も我慢している、というロジックですが、これは本人と対決するのを避ける言い訳でしかありません。従業員が言いたいことを言うなら、会社も従業員に求めるものをしっかり表現しなければ、従業員はこれで良いと思い、増長するだけです。

 次に、懲戒解雇の通知方法です。

 この事案では、要約版ともいえる懲戒通知と、詳細版ともいえる普通解雇の通知が、別の機会に通知されました。Yの対応方針が一貫していない様子もうかがえますが、懲戒解雇の方こそ、後から懲戒事由を追加できないのですから、より詳細であるべきですし、別々の機会に通知をすることが従業員の対応をいたずらに難しくして不当、と評価される可能性も否定できません。

 したがって、懲戒解雇の通知は、普通解雇の通知も兼ね、しかも具体的詳細に問題行為を指摘し、通知すべきでしょう。

 そのためにも、早い段階から労働法に強い弁護士に相談し、訴訟も視野に入れた対応を行うべきです。この事案では、Xの問題行動が明らかになった段階から、警告の仕方や配置転換の仕方、労務管理の仕方などを相談し、適切に対応していれば、事態が深刻になってしまい、Xにとっても転職などが難しくなる状況になる前に、自主退職や解雇などの方法で(場合によっては、業務態度が改善され)解決していたかもしれません。

※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。

※ この連載が、書籍になりました!しかも、『労働判例』の出版元から!


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