労働判例を読む#230

【日本貨物検数協会(日興サービス)事件】名古屋地裁R2.7.20判決(労判1228.33)
(2021.2.18初掲載)

 この事案は、派遣社員Xらが、派遣先の会社Yに対し、これがいわゆる「偽装請負」であるとして、労働者派遣法40条の6の1項5号に基づく労働契約の申込みがみなされると主張し、これに対する承諾を前提に労働契約の成立を主張したものです。

 裁判所は、「偽装請負」終了から1年内にXらの承諾がなかったとして、Xらの請求を否定しました。

1.派遣法40条の6 

  (労働者派遣法)

第四十条の六 ①労働者派遣の役務の提供を受ける者(…)が次の各号のいずれかに該当する行為を行った場合には、その時点において、当該労働者派遣の役務の提供を受ける者から当該労働者派遣に係る派遣労働者に対し、その時点における当該派遣労働者に係る労働条件と同一の労働条件を内容とする労働契約の②申込みをしたものとみなす。ただし、労働者派遣の役務の提供を受ける者が、その行った行為が次の各号のいずれかの行為に該当することを③知らず、かつ、知らなかつたことにつき③過失がなかったときは、この限りでない。

一~四:省略

五 この法律又は次節の規定により適用される法律の規定の適用を免れる④目的で、請負その他労働者派遣以外の名目で契約を締結し、第二十六条第一項各号に掲げる事項を定めずに労働者派遣の役務の提供を受けること。

2 前項の規定により労働契約の申込みをしたものとみなされた労働者派遣の役務の提供を受ける者は、当該労働契約の申込みに係る同項に規定する⑤行為が終了した日から一年を経過する日までの間は、当該申込みを撤回することができない。

3 第一項の規定により労働契約の申込みをしたものとみなされた労働者派遣の役務の提供を受ける者が、当該申込みに対して前項に規定する期間内に⑤承諾する旨又は承諾しない旨の意思表示を受けなかつたときは、当該申込みは、その⑥効力を失う。

4:省略

2.偽装請負の目的

 1つ目の問題は、「偽装請負」を、①派遣先にあたるYが、④「偽装請負」の目的で行い、③これについて善意・無過失でないこと(立証責任の問題を捨象し、「偽装請負」の悪意・過失とします)、です。これが満たされると、②Yが労働契約の申込をしたとみなされるのです。

 特に注目されるのは、④の「目的」です。

 「目的」は行為者の内心の状況ですから、一般的には、行為者の自白などによって内心の状況を直接証明することが重要な証明手段となります。

 けれども、裁判所は、偽装請負の意図を示す客観的な事情の存在により認定される、とその証明手段を限定しました。

 たしかに、③悪意・過失、すなわち「偽装請負」を知っていた(知りえた)状況にあることと、④「偽装請負」の目的は重なります。例えば、通貨偽造罪の場合、偽造通貨を作ることの故意と、これを行使する「目的」は一致しませんから、このような例に比較すると、「偽装請負」を対象にする点で両者は重なるのです。

 このように、④「偽装請負」の目的は、③「偽装請負」の故意(≒悪意)と内容的に重なりますので、証明手段が異なるべきだ、という意味のようです。

 けれども、③「偽装請負」の悪意・過失に比較して、④「偽装請負」の目的は、より確定的で明確な内心の状況です。つまり、③「偽装請負」の悪意・過失の場合には、偽装請負かもしれないが、それでも構わない(未必の故意)、さらには、偽装請負に気づかなかった(予見義務違反。予見可能性前提)、偽装請負を避ける対策を講じなかった(回避義務違反。回避可能性前提)、というレベルでも足りるのに対し、④「偽装請負」の目的の場合には、偽装請負をする、という明確な内心の状況が必要ですから、両者には違いがあるのです。むしろ、「偽装請負」目的(同条1項5号)の場合には、③「偽装請負」の善意・無過失でないことによってYの責任が免れるのではなく、④「偽装請負」の目的があって初めてYの責任が認められる、という修正が加えられた、と整理することも可能でしょう。わざわざ、④「偽装請負」の目的の場合の証明手段を制限する合理性が無いからです。実際、この事案では、客観的な事情の存在に限定しつつも、結局、「偽装請負」の目的が認定されているからです。

 このように、④「偽装請負」の目的について、あまり合理性を感じない制限解釈が加えられていますが、事実認定や評価に関しては結局、これを認めており、②Yが労働契約の申込をしたとみなされたのです。

3.承諾の意思表示

 2つ目の問題は、Xらによる承諾の意思表示を否定した点です。

 この事案でXらは、組合を通して何度もYなどの正社員にすることを要求してきました。このことから、②Yの労働契約の申込みに対し、⑤1年以内の承諾があった、と評価することもできそうです。正社員になる、という点で一致するからです。

 けれども裁判所は、⑤承諾について、直接雇用の意思が表示されれば足りるのではなく、「通常の労働契約締結における承諾」が必要、と解釈(ルール)を示しました。そのうえで、派遣元の会社からYらに移籍させる制度作りの提案であって、「直接雇用の対象者、移籍時期、労働条件等」はこれから協議されるにすぎない、として⑤承諾がなかった、と認定しました。

 とは言うものの、雇用条件などは既に「偽装請負」の条件として存在するものであり、それが②Yの申込みとしてみなされていますので、「偽装請負」の従業員を保護するという、同号の規定の趣旨・目的から考えると、Xらの側で雇用契約の内容が特定されていなくても、直接雇用の意思が表示されれば十分、という解釈も成り立ちうるでしょう。

 この事案は、控訴されていますので、2審がどのような判断を下すのか、注目されます。

4.実務上のポイント

 解釈の部分について、上記2・3のようにまだ細部の議論の余地が残されていますが、最も主要な論点となる「偽装請負」については、正面から認定されました。派遣法の規制が強化された半年後に、派遣契約に切り替えたのですが、その前後で実態に変化はなく、切り替え前も派遣の実態があったのだから、「偽装請負」とされたのです。

 このように見ると、半年遅れたものの、法改正に対応したYの努力をそれなりに評価し、上記3のように多少無理は承知のうえで、直接雇用の成立を否定した、と見ることもできそうです。

 けれども、法改正後の不安定な時期であることを除いて考えると、今後、「偽装請負」を解決すべきルールの1つとして派遣法40条の6の適用が争われる可能性が高くなったように思われます。会社としては、「偽装請負」を疑われるような運用がなされていないか、確認しておく機会です。

※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。

※ この連載が、書籍になりました!しかも、『労働判例』の出版元から!


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