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労働判例を読む#401

今日の労働判例
【龍生自動車事件】(東京地判R3.10.28労判1263.16)

※ 週刊東洋経済「依頼したい弁護士25人」(労働法)
※ 司法試験考査委員(労働法)
※ YouTubeで3分解説!
https://www.youtube.com/playlist?list=PLsAuRitDGNWOhcCh7b7yyWMDxV1_H0iiK

 この事案は、コロナ禍により倒産したタクシー会社Yの運転手Xが、解雇を無効として争った事案です。裁判所は、Xの請求を否定しました。

1.判断枠組み
 ここで特に注目されるのは、解雇の合理性を判断するための判断枠組みです。
 すなわち、裁判所はいわゆる「整理解雇の4要素」ではなく、2つの判断枠組みを採用しました。具体的には、①手続的配慮を著しく欠いたかどうか、②解散を仮装するなど、従業員排除の不当な目的があるかどうか、について検討し、いずれかが認められれば解雇は無効になる、というものです。そのうえで、組合との交渉経過(特に①)や倒産に至る背景(特に②)などを詳細に検証し、解雇を有効としました。
 このように見ると、今後、会社が倒産する際の解雇については、「整理解雇の4要素」ではなく、特殊な判断枠組みが適用されるのか、というと、必ずしもそうとは言えないように思います。
 例えば、「ネオユニットほか事件」(札幌高判R3.4.28労判1254.28)では、同様に使用者が業務を完全に終了して清算された事案で、1審は「整理解雇の4要素」とは異なる判断枠組みを示しました。本判決の示したものと少し異なり、❶事業廃止の必要性と❷解雇手続きの妥当性を判断枠組みとしていますが、❶は②に相当すると考えられますので、かなり似た判断枠組みと言えるでしょう。
 これに対して、この2審は、「整理解雇の4要素」で判断しています。さらに結論も、1審が解雇を有効としたのに対して、2審は解雇を無効としました(結論的には、いずれも損害賠償を認めていますが)。
 このように見ると、判断枠組みの違いが結論に大きな影響を与えているようにも見えますが、実際はそのようなことはありません。2審は4要素を判断していますが、❶に相当する部分以外は簡単に検討しているだけです。❷解雇手続きの相当性に該当する部分については、とても丁寧に検討して1審と逆の評価をしています。つまり、1審と2審は❷の評価が逆になったために解雇の有効性の評価が逆になっただけであって、その他の点は同じですから、判断枠組みの違いは結論に影響を与えていないと評価されるのです。

2.実務上のポイント
 このように、会社が倒産した場合の解雇についても、「整理解雇の4要素」が適用される可能性は十分にある、と考えられます。
 また、一般的には、「ネオユニットほか事件」のように、判断枠組み自体が結論に重大な影響を与えるわけではない、と考えられます。近時の下級審判決には、事案に応じて柔軟に判断枠組みを設定するものが多く見かけられますが、それは考慮すべき事情を整理するものにすぎず、何か特定の事情を判断すべき事情から排除することで結論を左右させるものではないからです。
 けれどもここで1点だけ留意すべきは、本判決の①②は、いずれか一方に該当する場合には、解雇が無効になる、という構造になっています。もしこれが、①②をそれぞれ独立して評価し、いずれかが証明されなければならない、ということであれば、ハードルが非常に高くなっている、と評価されます。なぜかというと、①②いずれも証明されるに至らなくても、総合的な判断によって(合わせ技によって)解雇が無効になる、という評価があり得なくなるからです。つまり、①②は、総合判断のための判断枠組みではなく、例外判断のための独立した要件となるのです。
 この判決だけで、いわゆる「判断枠組み」とは異なる「例外要件」が定められたと見るべきかどうかは判断しかねますが、「ネオユニットほか事件」よりも解雇無効のハードルを高くしたと評価される余地もあります。今後の動向が注目されます。

※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。

※ この連載が、書籍になりました!しかも、『労働判例』の出版元から!


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