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労働判例を読む#530

※ 元司法試験考査委員(労働法)

【JR東海(年休・大阪)事件】(大阪地判R5.7.6労判1294.5)

 この事案は、東海道新幹線の乗務員(運転手、車掌)達Xらが、年休を思い通りに取得できなかったことが違法であるとして、JR東海Yを相手に争った事案で、裁判所は、Xらの請求を否定しました。

1.関連事件との比較
 年休取得に関しては、おなじJR東海を被告とする訴訟で、「JR東海(年休)事件」の判決が好感されています(東京地判R5.3.27労判1288.18)。
 そこでは、本事案と異なり、①制度設計上の問題として、Yによる時季変更権の行使が、その日の5日前まで可能であることが違法であるとし、②人員不足により恒常的に有給消化できない状況にあったことが違法である、と判断しました。
 他方本判決では、①②いずれも合理性が認められました。本判決で、この2点は、Yの時季変更権行使の違法性を判断するための判断枠組みのうちの2つと位置付けられているようですが、少し分かりにくい判断枠組みの構造になっています。結局のところ、諸事情を総合考慮して判断する、ということであって、判断枠組み自体が重要ではなさそうですので、判断枠組みの構造よりも、この①②の評価の違いが、今後さらに議論されていくポイントになると思われます。
 なお、本事案では有給の申込時期や効果発生時期、時季変更権の行使時期も問題となりました。この事案でも、上記東京地判と同じように、毎月のシフトを決める際に、年休も合わせて決めることとなっており、❶前月10日までに、シフトの案が示され、❷20日までに年休の希望を提出させ、❸25日までに勤務表を確定させ、❹実際の勤務日の5日前に具体的な業務内容(特に、予備担当者の業務内容など)を確定させる、というプロセスである、と認定されました。その後の議論がこのプロセスを前提に成り立っており、Xらが提起した、非常に多数の論点を議論していますが、ここではその点の検討を省略します。

2.制度設計上の問題(①)
 本判決は、就業規則の文言が5日前までの時季変更権行使を阻害しないとも判断していますが、実際の時季変更権行使の運用実績も、合理性の根拠としています。すなわち、半数以上が❸までに行われている点が、合理性の根拠とされています。
 上記東京地判は、運用実績について言及しておらず、逆に、Y側の時季変更権行使の必要性を検討しています。すなわち、5日前までに急に手配された臨時列車の数と、そのために必要な臨時乗務員の人数から、1年間で平均すると一日当たり0.16人であることや、急な病欠があるとしても出勤予備制度で対応可能である、と認定し、①の合理性を否定しました。
 このように、本判決では従業員側の不利益を問題にし、上記東京地判は会社側の必要性を問題にしていますが、理論的に矛盾するものではないので、いずれの事情も考慮して判断すべきである、という意見も出てきそうです。今後、①の合理性をどのような事情で判断するのか、という点も重要なポイントになるでしょう。

3.人員不足(②)
 ②については、上記東京地判・本判決いずれも、運用実績などの統計的なデータを詳細に分析しており、検討にかなりのスペースを割いています。多くの違いがありますが、一番大きな違いは、何を重視しているかという点でしょう。
 すなわち、上記東京地判は、各事業所が設定した基準人員数を重視しています。この基準人員数は有給休暇消化にも配慮して設定されますが、基準人員数を達成しても、有給をすべて消化できないのに、それすら達成されなかった、という評価がされているのです。
 他方本判決は、事業所が異なるため認定が異なる面もありますが、基準人員数は目安にすぎない、としたうえで、確保すべき乗務員数の計算は、日によって運行列車数も変化するので、基準人員数から単純に計算できない、としています。さらに、出勤予備の人数も、本来の5人を確保しきれていない日が多いことを、人手不足の根拠とするXの主張に対し、出勤予備の人数も目安にすぎず、しかも、たしかに5人確保できたのは27.8%だが、4人以上確保できたのは94.7%であり、目安は達成されている、と評価しました。
 このように、Yが定めた基準人員数を絶対的な基準と位置付ける(上記東京地判)か、単なる目安と位置付ける(本判決)か、の違いが、逆の結論につながっているポイントです。

4.実務上のポイント
 結果的に、Yの主張が認められましたが、上記東京地判のように、Yの制度設計や運用に関し、一部合理性を否定する裁判例もあります。
 従業員のシフト管理は、本事案のように規模が大きく、資格管理や臨時業務対応などの複雑な配慮が必要な場合には、非常に難しくなりますが、従業員の権利(ここでは有給休暇取得権)に十分配慮しなければならないことが、より明確に示されました。近時のIT技術の進化により、従業員の権利に対する配慮をより高めたプロセスや運用が可能かどうか、検討するきっかけになるでしょう。

※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。

※ この連載が、書籍になりました!しかも、『労働判例』の出版元から!


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