労働判例を読む#277

今日の労働判例
【谷川電機製作所労組ほか事件】
さいたま地判R2.6.12(労判1237.73)

YouTubeで3分解説!
https://www.youtube.com/playlist?list=PLsAuRitDGNWOhcCh7b7yyWMDxV1_H0iiK

 この事案は、産業別労働組合の支部組合Xが、会社の組合Yとして分離独立する際に、Xに留まる組合員が1名存在したこともあり、XとYのいずれが正当な権利承継者となるかが争われた事案で、分離独立の有効性やそれに関与した組合員の責任のほか、Xの財産がYに承継されたかどうかが問題とされました。
 裁判所は、Yの分離独立の経緯を詳細に認定したうえで、関係者の責任を否定し、さらにXの財産に関するYの主張を否定しました。

1.当事者能力
 どのような不満があって、Xの組合員の多数が分離独立を希望したのかわかりませんが、Xの組合員は産業別労働組合に対して分離独立を申し入れました。これに対して産業別労働組合は分離独立を認めなかったため、とどまることを主張する組合員1名を除き全員がXを脱退し、Yを結成しました。
 ここで、XYそれぞれが訴訟当事者たり得るかが問題になりますが、裁判所はいずれの訴訟当事者性も肯定しました。詳細の検討は省略しますが、Xについては、たとえ組合員が1名となっていても、以前からの産業別労働組合の支部であり、実際に活動も行われていることから、民訴法29条による当事者能力が肯定されました。Yについては、労働組合としての法人資格を取得していたことから、当事者能力が肯定されました。
 このように、XYいずれも訴訟上の当事者能力が認められたのです。

2.分裂の責任
 次の問題は、XY分裂に関する組合員個人の責任です。具体的には、Yを分離独立させた組合員ら個人の責任が問題となり、これと併せてXに留まった唯一の組合員個人の責任も問題となりました。
 ところが裁判所は、Yの分離独立の決議自体は無効としつつ、そのプロセス自体でXに留まった唯一の組合員の意見表明の機会なども確保していた点などを指摘し、Yを分離独立させた組合員ら個人の責任を否定し、合わせてXに留まった唯一の組合員の責任も否定しました。
 このように、Yの分離独立に関わった両組合の組合員個人の責任も否定しました。
 ここまでのところ、XYそれぞれに言い分があり、XY双方に責任問題に繋がるほどの違法・悪質な言動はなかった、ということになるでしょう。

3.組合財産の帰属
 最後の問題は、Xが管理していた財産がYに承継されたかどうかという点です。
 裁判所は、Yに承継されずXに帰属していると判断しました。
 まず規範(ルール)ですが、裁判所は、「下部組織自らの意思によって組織として脱退する」場合、より具体的には「下部組織内での一般的な意思決定手続である多数決による正式な意思決定に基づいて、離脱する」場合に、財産が承継されるというルールを示しました。
 そのうえで事実認定(あてはめ)の問題として、Xに留まる組合員以外の全組合員が組合を脱退するという方法でXを離脱したことだけを理由に、Yの主張を否定しました。
 つまりここでは、組合組織の問題として、ルールに基づく組織の継承が行われない限り、財産の継承も発生しないことが裁判所によって示されたのです。

4.実務上のポイント
 組合からの離脱は大多数の組合員が希望することでしたが、結果的に、元の組合に留まる意向を示したたった一人の組合員の意向がこれを上回ることとなりました。
 組合のマネジメントに関し、多数決で全てを押し切れるわけではないこと、ルールに基づくプロセスが重要であること、を再確認しましょう。

※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。

※ この連載が、書籍になりました!しかも、『労働判例』の出版元から!


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