見出し画像

労働判例を読む#153(有料解説動画付)

【ゴールドマン・サックス・ジャパン・ホールディングス事件】東京地裁H31.2.25判決(労判1212.69)
(2020.5.8初掲載)

 この事案は、5年の金融業務経験者として採用されたXが、その能力を満たさないとして試用期間満了時にYに解雇された事案で、Xが解雇を無効と争った事案です。裁判所は、解雇を有効と評価しました。

1.判断枠組み(ルール)

 試用期間による解雇については、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合には、権利を濫用したものとして、無効となる」と一般論が述べられています。
 しかし、いずれも抽象度の高い要件であり、どのような事情が考慮されたのか、という観点から、「判断枠組み」を探りましょう。より具体的には、この次の「あてはめ」で明らかにされます。
 すなわち、①期待される能力水準、②従業員側の落ち度の程度、③プロセス、④会社側の落ち度の程度、です。

2.あてはめ(事実)

 上記①~④それぞれ、概要、以下のように判断しました。
① 期待される能力水準
 5年以上の金融業務経験が最初から条件とされており、即戦力として期待されていたこと、これをXも知っていたこと、が認定されました。
② 従業員側の落ち度の程度
 Yが、しっかりとミスの様子を記録に残しており、重大なミスが多く繰り返されていたことが認定されました。
③ プロセス
 Xからは、解雇ありきで記録が取られていた、と主張されましたが、裁判所は、ミスの原因分析などのために必要であったこと、個別に事情聴取やフィードバックをしていたこと、Xを評価する記載もあること、などから、解雇ありきではなかったと認定されました。
④ 会社側の落ち度
 Xからは、Yの準備したマニュアルやチェックリストに不備があった、指導体制が極めて不十分だった、と主張されましたが、裁判所は、十分な指導や面談がされていた、その内容にも問題がない、マニュアルやチェックリストにも問題がない、と認定しました。

3.実務上のポイント

 1つ目のポイントは、判断枠組みの整理の方法です。
 労働法では、抽象度の高い要件が多く、判断枠組みを適切に設定して議論を整理しなければなりません。その際、「天秤」の図を思い浮かべると、大体、うまくいきます。すなわち、一方の皿を従業員側の事情、他方の皿を会社側の事情、支点部分にプロセス、と見立て、事案ごとに考えられる事情をこの3点を中心に抽出し、整理するのです。
 実際、この事案の②~④が、この3点に相当します。
 そして、試用期間での解雇であって、会社は解約権を留保しているため、解雇のハードルが下がっていることと、即戦力雇用の合意があるため、従業員側のハードルが上がっていることを考慮して、この「天秤」のバランスを測るのです。
 2つ目のポイントは、プロセスです。
 この会社では、試用期間中にXの適性を見極めるために、非常に丁寧に対応し、記録を残していました。近時、ハイレベルの中途採用者に対する試用期間による解雇の有効性の認められた事案を多く見かけるようになりました。中途採用の労働市場が徐々に拡大している中で、「即戦力」を求める会社側にとって、参考にすべきポイントです。

画像1

※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。

※ この連載が、書籍になりました!しかも、『労働判例』の出版元から!

※ この下が、6分の有料解説動画です。即戦力採用のポイントと、裁判所の「判断枠組み」をお話しします。字幕をオンにしてご覧ください。

ここから先は

28字

¥ 400

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?