労働判例を読む#201

【圓満院事件】大津地裁R1.10.3判決(労判1222.87)
(2020.11.20初掲載)

 この事案は、僧侶らXが、寺院Yを解雇されたところ、解雇が無効であり、従業員としての地位があることを求めた事案です。裁判所は、Xの請求を認めました。
 たくさんの論点がありますが、ここでは、解雇の効力について検討しましょう。

1.解雇の有効性

 Xが解雇されたのは、Yの改革を呼びかける活動の発起人として案内文を配布したことに端を発しています。
 とは言うものの、案内文配布後、10日も経たないうちにこれを撤回するなどの謝罪文を配布しました。
 けれども、YはXに退職勧奨し、Xがそれに応じなかったところ、今度はXの転勤を命ずるなどしましたが、Xが転勤を拒否したところ、Yは、①横領、②カルト団体への加入、③乗っ取り、④転勤拒否(転任拒否)を理由にXを解雇したのです。
 しかし、①は事実自体が認められない、②は、当該団体がカルト団体であるわけでなく、Xも脱退していて実害がない、Yも当初は当該団体への加入を問題にしていなかった、③乗っ取りの意図などはない、④転勤命令は不合理である、などとして、解雇理由を全て否定しました。
 解雇の合理性については、解雇事由が存在するけれども、合理的でない、したがって解雇権の濫用である、と議論される場合が多く見受けられますが、この事案では、そもそも解雇事由がない、という判断がされました。

2.実務上のポイント

 この事案では、Xが居住していたYの建物からの退去も問題になりました。
 裁判所は、建物の明渡しを求めることは解雇を実現することになるので、信義則違反になるとしました。Yの請求を否定する理由として、「信義則」が理由とされているのです。
 ところで、組合に施設を利用させていた事案で、会社からの施設明け渡し請求を否定した事案(例えば「ヤマト交通(組合事務所明渡請求)事件」(東京高裁R1.7.3判決、労判1210.5))では、裁判所は、使用貸借の使用目的が終了していないことを理由としています。
 このように、同じ使用貸借の消滅を否定する場合でも、「信義則」を根拠にする場合と、「使用目的」を根拠にする場合があります。後者は、組合としての使用であり、この事案のように個人の居住のためとは違う、という説明も可能でしょうが、この事案も、雇用に伴う使用ですから、雇用が続く限り、使用目的も継続する、という説明ができるように思われます。
 どちらの法律構成が正しい、という問題ではなく、いくつかの法律構成が可能である、という整理をしておくのが、実務的でしょう。

※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。

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