見出し画像

労働判例を読む#399

今日の労働判例
【ルーチェほか事件】(東京地判R2.9.17労判1262.73)

※ 週刊東洋経済「依頼したい弁護士25人」(労働法)
※ 司法試験考査委員(労働法)
※ YouTubeで3分解説!
https://www.youtube.com/playlist?list=PLsAuRitDGNWOhcCh7b7yyWMDxV1_H0iiK

 この事案は、美容室Yで働く美容師Xの労働時間が問題とされた事案です。
 裁判所は、Xの主張の一部を認め、Yに対して未払賃金等の支払いを命じました。

1.始業時間と就業時間
 始業時間については、Y所定の11時に対してXは10時半と主張し、就業時間については、予約のない場合には早く帰らせていた(最終予約受付時間の7時半以前の場合もあった)とするYの主張に対して、Xは8時まで待機していたと主張しています。
 これに対して裁判所は、Xの証言が変遷するなど、信用性が乏しい点を主な理由として、始業時間は10時50分(10分だけ、Yの主張を否定しています)、就業時間は明確な事実や証拠がない限りY主張の時間を認定しました。
 XとYの主張や証拠が食い違う場面では、証言の信用性や、それを裏付ける他の証拠の有無が重視されていることが分かります。

2.練習会と講習会
 Yでは、勤務時間外に相互に教えあう練習会や着付けの講習会が行われていました。
 Xは、参加しなければ技能向上の機会がない、途中退席もできなかった、などと主張しましたが、裁判所は、指揮命令下に無かったとして、労働時間性を否定しました。
 ここで特に注目されるのは、練習会について、「自主的な自己研さんの場という側面が強い」と評価している点です。労働時間性の認定に関し、労働時間かどうか、という判断をしているのではなく、労働時間の性格が強いか、それ以外の性格が強いか、という判断をしていることがうかがわれます。

3.実務上のポイント
 その他に、個別のイベントや特徴のある日について、個別に労働時間が議論され、認定されています。
 ところで本事案は、労働時間をあまり具体的・詳細に記録していなかったYですが、他方で、Xの側でも長時間労働を裏付ける具体的な証拠が十分でない事案です。会社の労務管理上の問題として見た場合、もしXの側が具体的な証拠を提出できた場合には、Yの主張を裏付ける証拠も十分でないことから、この判決以上にXにとって厳しい判断になったように思われます。
 本事案は、Xの側に証拠が十分なかったことから救われたにすぎず、労働時間の管理について適切に記録化することは、労務管理にとって重要である、と考えるべきです。

※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。

※ この連載が、書籍になりました!しかも、『労働判例』の出版元から!


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?