労働判例を読む#246

【国・大阪中央労基署長(讀賣テレビ放送)事件】大阪地裁R2.6.24判決(労判1231.123)
(2021.4.16初掲載)

YouTubeで3分解説!
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 この事案は、テレビカメラマンとして放送会社Kに入社した後に事務的な業務を担当していた従業員Xが、業務上のストレスによってうつ病に罹患したとして労災申請したところ、労基署Yが労災認定しなかったため、Yの判断を取消すように訴訟を提起した事案です。裁判所は、Xの主張するストレスの原因を一つひとつ検証し、Xの主張を否定しました(Yの判断を維持しました)。
 この判決は、他の多くの判例・裁判例と同様、厚労省の「判断基準」を判断枠組みとして採用し、この「認定基準」の示すストレスの原因となる事象の類型や、ストレスの強さの尺度を参考に因果関係(業務起因性)を判断していますが、この判断枠組みについては特に検討しません。ここでは、事実認定と評価について検討します。

1.X証言の信用性
 注目されるのは、職場で大きなストレスを受けた原因となる多くの事情についてのXの主張や証言について、裁判所が、事実に反する、あるいは誇張されているという趣旨の判断を示している点です。
 ここで、道徳的にこれで良いのか、などを議論するつもりはありません。「過敏な被害者」「被害妄想」等の言葉があるように、仮に悪気がなくても周囲の自分に対する害意や敵意、攻撃、避難などが存在しないのに存在すると感じ、あるいは実際以上に過剰に感じる傾向の高い人も存在するからです。また、同じようなことは会社側の問題として発生する場合があります。思い込みの強い管理職者や経営者の思い込みや言動を否定する裁判例も多く存在するのです。
 実際裁判所も、Xの証言に対して、これを否定する他の従業員の証言と比較し、Xだけを一方的に非難するような認定はしていません。いずれも、Xの証言に反する事実を、客観的な事情によって裏付けています。
 具体的には、①Xの証言に反する事実(例えば、仕事を与えられた、という主張に対し社内の職務権限や実際にその後誰が当該業務を担当したかなど、客観的に調べればわかる事実など)の認定、②Xの勤務時間がもともと短い(残業時間がほとんどない)うえに、それが特段長くなっていない点、③Xの仕事の密度ももともと高くないうえに、それが特段高くなっていない点、④Xの証言の、辻褄が合わず合理性のない点の指摘、等です(労判1231.139左「4」全体)。
 さらに裁判所は、いくつかの3つのストレス要因(弱、中、弱)を全体として評価しても「強」にならないと認定しています。

2.実務上のポイント
 このように、会社側証人と従業員側証人の証言が大きく食い違う場合は、労働判例の中でよく見かけるものです。特に、ハラスメントやメンタルの事案でよく見かけます。
 そこでは、少なくともここ数年労働判例誌に紹介される裁判例に関して言えば、(少なくともそれが主要論点である場合には)いずれも上記のように食い違う証言のいずれが合理的であるかを検証し、事実認定を行っています。証言が対立する場合には引き分けで、その事実は証明されなかったことになる、というような簡単な認定をしているものは現在、ほとんど見かけられません。
 この意味で、特に証言が食い違う場合の事実認定の方法は一貫しています。この判例への評釈では、業務起因性の認定について、「具体的な事実認定とその評価の手法において、大きく異なるのが現状」と分析しています(同126上右)が、この意見には反対です。
 会社では、ハラスメントやメンタルなどのトラブルに関して、問題提起する従業員とその管理職者の主張や供述が食い違うことが時々起こりますが、その際、簡単に真偽不明と片付けるのでなく、いずれの主張や供述の方が合理的なのかも検証し、トラブルの実態を客観的に見定めることが重要になります。

※ 英語版

※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。

※ この連載が、書籍になりました!しかも、『労働判例』の出版元から!



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