見出し画像

労働判例を読む#418

今日の労働判例
【アンドモワ事件】(東京地判R3.12.21労判1266.74)

※ 週刊東洋経済「依頼したい弁護士25人」(労働法)
※ 司法試験考査委員(労働法)
※ YouTubeで3分解説!
https://www.youtube.com/playlist?list=PLsAuRitDGNWOhcCh7b7yyWMDxV1_H0iiK

 この事案は、300店舗もの居酒屋を展開していた会社Yが、コロナ禍の影響で約10店舗を残して全て閉店する決定をし、ほとんどの従業員を解雇した事案で、これに不満の従業員Xらが、解雇の無効確認+賃金の支払いと、慰謝料の支払いを請求した事案です。
 裁判所は、慰謝料の請求を否定したものの、解雇無効を認め賃金の支払いを命じました。

1.整理解雇の4要素
 ここで裁判所は、一般的な「整理解雇の4要素」に従って検討しました。4つの判断枠組みについて、独立した要件(条件)とするのではなく、4つの判断枠組みを検討した後に総合判断を行い、最終判断をしているからです。
 そして、人員削減の必要性、解雇回避努力、被解雇者選定の合理性については、いずれも不合理ではないとしましたが、4つ目の判断枠組みである手続の相当性についてこれを否定しました。
 会社自身が、経営不振への対応を決めかねていたなどの事情もあるのでしょうが、生活に関わる従業員の解雇について、しかも従業員側に落ち度がないにもかかわらず、その過程について十分説明しないことは不当であるとしました。
 そのうえで、総合判断としても解雇が無効となったのです。
 これだけ多様な従業員がおり、他方、会社経営に対する適性のある従業員は限られているであろう中で、従業員の意見を聞いている時間が惜しい、その間にも経営再建のためにできることは沢山ある、という気持ちになったのかもしれません。しかし、従業員に情報を提供していくことは、従業員の身の振り方を考える機会やそのための情報を提供することになりますので、会社の都合だけで事前のプロセスを省略できるものではありません。
 近時の裁判例で、事前のプロセスが不十分でも仕方がない、と評価された事件もあります(「龍生自動車事件」東京地判R3.10.28労判1263.16)が、むしろこのような事案の方が例外と考えるべきでしょう。

2.実務上のポイント
 原告となった従業員らについて、今後、毎月一定額の給与の支払いが命じられました。これだけ大幅な業務縮小をして経営再建を目指すうえで、財務的にかなりの重荷になるはずですが、Yは控訴せずにこの判決を受け入れたため、訴訟手続としては「確定」しています。
 その後、YはXらをどのように処遇し、あるいはどのように対応することを合意したのでしょうか。経営再建時の経営者の大変さは理解できますが、従業員に対する配慮を怠ると、経営再建にも大きな影響を与えてしまうのです。

※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。

※ この連載が、書籍になりました!しかも、『労働判例』の出版元から!


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?