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労働判例を読む

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#ハラスメント

労働判例を読む#520

※ 司法試験考査委員(労働法) 【東京三協信用金庫事件】(東京地判R4.4.28労判1291.45)  この事案は、総務部の管理職者A(女性)に対して他の管理職者Xがパワハラを行ったとして、会社YがXに懲戒処分(降職降格、始末書提出・記録化)を与えたことに対し、Xがこれを違法と主張し、元の地位にあることの確認や給与減額分の支払等を求めた事案です。  裁判所は、Xの請求を否定しました。 1.事実認定  ここでは、システム導入の進行に関し、Aに対して内線電話で、強い口調で以

労働判例を読む#461

【学校法人茶屋四郎次郎記念学園事件(東京福祉大学・授業担当)】(東京地判R4.4.7労判1275.72) ※ 司法試験考査委員(労働法)  本事案は、大学教員Xが、大学Yとの訴訟などを通して合意した内容に反し、授業を担当させなかったことや、そのことをハラスメントの問題として対応するように求めたのに適切に対応しなかったことによって損害を被った、としてYに対し損害賠償を請求したものです。  裁判所は、授業を担当させなかった点と、ハラスメントへの対応のうち検討結果の連絡が遅れた

労働判例を読む#453

【阪神高速トール大阪事件】(大阪地判R3.3.29労判1273.32) ※ 司法試験考査委員(労働法)  この事案は、高速道路の料金所を運営する会社Yの従業員Xが、実際の労働時間分の手当が支払われていない、自身に対する懲戒処分(Xがハラスメントしたことが理由とされている)が無効である、と争った事案です。裁判所はXの請求を否定しました。 1.仮眠時間(待機時間)  この点でまず注目されるのは、待機時間が労働時間になるかどうかに関する判断枠組みです。キーワードとしては、①指

労働判例を読む#428

【ユーコーコミュニティー従業員事件】 (横浜地相模原支判R4.2.10労判1268.68) ※ 週刊東洋経済「依頼したい弁護士25人」(労働法) ※ 司法試験考査委員(労働法) ※ YouTubeで3分解説! https://www.youtube.com/playlist?list=PLsAuRitDGNWOhcCh7b7yyWMDxV1_H0iiK  本事案は、事件の詳細は分かりませんが、ハラスメントを受けたと主張する従業員Yに対して、会社Xが、損害賠償などの債務が存

労働判例を読む#381

今日の労働判例 【国(在日米軍厚木航空施設・パワハラ)事件】(東京地判R3.11.22労判1258.5)  この事案は、米軍Kの基地で働いていた元従業員Xが、その上司らにパワハラを受け、適応障害を負い、退職することとなった、等として、日本国政府Yに対して損害賠償を請求した事案です。なお、米軍内での労務管理上の問題について、日本国政府が責任を負うのは、日米地位協定と、それに基づく特別法の規定によりますが、ここでは検討しません。 1.判断構造  事実認定に関して注目されるポイ

労働判例を読む#378

今日の労働判例 【大器キャリアキャスティングほか1社事件】(大阪地判R3.10.28労判1257.17) ※ 週刊東洋経済「依頼したい弁護士25人」(労働法) ※ 司法試験考査委員(労働法) ※ YouTubeで3分解説! https://www.youtube.com/playlist?list=PLsAuRitDGNWOhcCh7b7yyWMDxV1_H0iiK  この事案は、ガソリンスタンドKの夜間業務の担当者を派遣している会社Yに勤務する従業員Xが、さらに、派遣先

労働判例を読む#343

今日の労働判例 【A大学ハラスメント防止委員会委員長ら事件】(札幌地判R3.8.19労判1250.5) ※ 週刊東洋経済「依頼したい弁護士25人」(労働法) ※ 司法試験考査委員(労働法) ※ YouTubeで3分解説! https://www.youtube.com/playlist?list=PLsAuRitDGNWOhcCh7b7yyWMDxV1_H0iiK  この事案は、Xが外国語教員の会議で他の外国語教員に対して侮辱的な発言をしたことに関し、大学のハラスメント委

労働判例を読む#85

今日の労働判例 【コンチネンタル・オートモーティブ事件】 東京高裁平29.11.15判決(労判1196.63) ※ 週刊東洋経済「依頼したい弁護士25人」(労働法) ※ 司法試験考査委員(労働法) ※ YouTubeで3分解説! https://www.youtube.com/playlist?list=PLsAuRitDGNWOhcCh7b7yyWMDxV1_H0iiK  この裁判例は、休職期間満了により退職となった従業員Xが、上司によるパワハラなどによって精神障害を発

労働判例を読む#78

今日の労働判例 【ゆうちょ銀行(パワハラ自殺)事件】 徳島地裁平30.7.9判決(労判1194.49) ※ 週刊東洋経済「依頼したい弁護士25人」(労働法) ※ 司法試験考査委員(労働法) ※ YouTubeで3分解説! https://www.youtube.com/playlist?list=PLsAuRitDGNWOhcCh7b7yyWMDxV1_H0iiK  この事案は、職場のハラスメントで従業員Aが自殺したと主張する遺族Xに対し、裁判所が、会社Yの損害賠償責任を

労働判例を読む#64

​​​​​​​【国・さいたま労基署長(ビジュアルビジョン)事件】東京地裁平30.5.25判決(労判1190.23) (2019.5.17初掲載)  この事案は、退職強要などのパワハラによりうつ病に罹患した、と主張する元従業員(うつ病による休職後、休職期間満了により退職)の労災(休業補償給付)を求めたのに、不支給処分されたことについて、この不支給処分の取り消しを求めた(つまり、労災の給付を求めた)事案です。  これに対し、裁判所は、会社から受けたストレス強度が「強」であると認

労働判例を読む#247

【鑑定ソリュート大分ほか事件】大分地裁R2.3.19判決(労判1231.143) (2021.4.23初掲載) YouTubeで3分解説! https://www.youtube.com/playlist?list=PLsAuRitDGNWOhcCh7b7yyWMDxV1_H0iiK  この事案は、不動産鑑定事務所を運営する会社Yの取締役として登録されていた不動産鑑定士Xが、契約を解消されたことなどが違法である、ハラスメントを受けた、などと主張し、従業員としての地位確認や

労働判例を読む#246

【国・大阪中央労基署長(讀賣テレビ放送)事件】大阪地裁R2.6.24判決(労判1231.123) (2021.4.16初掲載) YouTubeで3分解説! https://www.youtube.com/playlist?list=PLsAuRitDGNWOhcCh7b7yyWMDxV1_H0iiK  この事案は、テレビカメラマンとして放送会社Kに入社した後に事務的な業務を担当していた従業員Xが、業務上のストレスによってうつ病に罹患したとして労災申請したところ、労基署Yが

労働判例を読む#192

【国・札幌東労基署長(紀文フレッシュシステム)事件】札幌地裁R2.3.13判決(労判1221.29) (2020.10.9初掲載)  この事案は、会社Aのチルド食品の配送などを行う会社の受注データの受信や伝票の出力を行うセンターにアルバイトとして1年半近く勤務した女性原告Xが、上司Bからたびたびセクハラを受けた(卑猥な言動の対象となった)ことによって精神障害(うつ病)を発症した、として労災認定を申請した事案です。  労基は労災認定しませんでしたが、裁判所はこれを認定し、労災

労働判例を読む#27

「イビデン事件」最高裁平30.1.5判決(労判1181.5) (2018.12.6 初掲載)  この判例は、グループ会社従業員によるセクハラ行為について、親会社の責任を認めた高裁判例を覆したものです。 1.2つの場面  裁判所は、ハラスメント被害者の主張を退けるために、親会社の責任について2つの場面に分けて検討しています。すなわち、高裁では「使用者が就業環境に関して労働者からの相談に応じて適切に対応すべき義務」(本件付随義務)の違反が認定されましたが、最高裁はこれを以