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労働判例を読む

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2021年3月の記事一覧

労働判例を読む#54

【医療法人社団充友会事件】東京地裁平29.12.22判決(労判1188.56) (2019.3.29初掲載) この裁判例は、産休・育休に入った女性の歯科衛生士Xに関し、歯科医院Yの理事長Aが、Yは退職の意思を示したとして退職手続を進めたところ、退職していないとしてXが訴訟を提起した事案に対し、裁判所がXの請求を認めた事案です。 1.ルール(規範定立) 裁判所は、解除の意思表示について、次のようなルールを示しました。 「退職の意思表示は、退職(労働契約関係の解消)という法律

労働判例を読む#243

【テヅカ事件】福岡地判R2.3.1労判1230.87 (2021.3.26初掲載)  この事案は、定年退職後に再雇用された従業員Xが、会社Yから、当初の期待よりも早く更新拒絶されたことからその効力が争われた事案で、裁判所はXの請求を概ね認めました。 1.更新の期待  労契法19条2号が適用され、Xには更新の期待があると評価されましたが、そこで特に注目されるのは、健康状態に問題がなければ自動的に更新されるような運用がされていたことが直接の根拠として指摘されているほか、事案概

労働判例を読む#242

【アクサ生命保険事件】東地判R2.6.10労判1230.71 (2021.3.25初掲載)  この事案は、女性管理職者Xが、育児のために4時までの時短勤務をしていた女性部下Aに対し、その帰宅後の7時~8時、ときには11時頃に、電話で業務報告を指示するなどしていた行為について、パワハラを理由に戒告処分(懲戒処分)をしたことの有効性と、逆にX自身が長時間労働していたことに対する損害賠償請求が争われた事案で、裁判所は、懲戒処分は有効としつつ、長時間労働については慰謝料として10万

労働判例を読む#241

【京都市(児童相談所職員)事件】大高判R2.6.19労判1230.56 (2021.3.24初掲載)  この事案は、児童相談所の職員Xが、児童に対する虐待があったとして公益通報制度によって通報を2回行ったものの、不適切な対応がなかったという2回の報告に対して不満を抱き、当該事件に関する資料を閲覧し、持ち出した事案です。任命者である京都市Yが、停職3日の処分を下したところ、Xがその効力を争った事案です。裁判所は、1審に続き2審も、Xの請求を認めました。 1.2審の特徴  2

労働判例を読む#240

【アートコーポレーションほか事件】横地判R2.6.25労判1230.36 (2021.3.24初掲載)  この事案は、始業時間前の様々な準備の時間も勤務時間である、引越作業中に顧客に与えた損害の一部を従業員Xらが負担したのは違法である、アルバイトに通勤手当が支給されないのは違法である、携帯電話の通話料の負担は違法である、組合費の控除は違法である、などと争われた事案で、裁判所はXの主張の一部を認めました。 1.勤務時間  勤務時間について、朝礼、朝礼後の目的地への移動のほか

労働判例を読む#239

【福生病院企業団(旧福生病院組合)事件】東地判R2.7.1労判1230.5 (2021.3.19初掲載)  この事案は、病院の事務員がその上司に繰り返しいじめられて適応障害・睡眠障害などになったとしてその責任が問題になった事案で、裁判所は病院側の責任を認めました。 1.パワハラとメンタル  この事案では、直属の上司によるいじめと、さらにその上司による配慮不足の両方が問題にされ、そのいずれについても責任を認めました。  これは、近時のハラスメントとメンタルを区別する裁判所の

労働判例を読む#238

【メトロコマース事件】最三小判R2.10.13労判1229.90  この事案❺は、有期契約社員Xが、本給、資格手当、住宅手当、賞与、退職金、褒賞、早出残業手当について、正社員と不合理な差があるとしてその違法性を争った事案です。  最終的に最高裁が判断を示したのは退職金の差だけですが、合理性を認めました。  ここでは、前回(#237)の大阪医科薬科大学(旧大阪医科大学)事件❹(以下、「大阪医薬大事件」と言います)との違いを比較しながら検討します。❺当事案と❹大阪医薬大事件は、

労働判例を読む#237

【大阪医科薬科大学(旧大阪医科大学)事件】 最高裁三小R2.10.13判決(労判1229.77)  この事案❹は、大学の教室事務を担当する元アルバイト社員(有期契約社員)Xが、基本給、賞与、休日賃金、法定外年休、夏季特別有給休暇、病気欠勤中の賃金、医療費補助措置について、正社員と不合理な差があるとしてその違法性を争った事案です。  最終的に最高裁が判断を示したのは賞与と病気欠勤中の賃金に関する差で、いずれも合理性を認めました。  ここでは、主に賞与に関する判断について検討し

労働判例を読む#236

【日本郵便(非正規格差)事件】最一小判R2.10.15労判1229.67 (2021.3.11初掲載)  この事案❸(以下、「大阪事件」と言います)は、日本郵便Yの期間雇用社員(有期契約社員)Xが、外務業務手当、郵便外務業務精通手当、年末年始勤務手当、早出勤務等手当、祝日給、夏期年末手当、住居手当、扶養手当、夏期冬期休暇、病気休暇、について、正社員と不合理な差があるとしてその違法性を争った事案です。  最終的に最高裁が判断を示したのは、❶佐賀事件や❷東京事件と同じ夏期冬期特

労働判例を読む#53

【地公災基金山梨県支部長(市立小学校教諭)事件】東高判H30.2.28労判1188.33 (2019.3.28初掲載)  この裁判例は、小学校教諭のXが、日曜日の自治会防災訓練に参加するため、自家用車でその会場に向かう途中、途中の児童に参加を促すために立ち寄ったところ、その飼い犬に敷地内で咬まれ、通院過料2週間の怪我を負った事案です。公務災害の認定をしなかった1審判決と異なり、公務災害の認定をしました。 1.2つの理論構成  Xの請求が認められるための法律構成は2つあり

労働判例を読む#235

【日本郵便(時給制契約社員ら)事件】最一小判R2.10.15労判1229.58 (2021.3.5初掲載)  この事案❷(以下、「東京事件」と言います)は、日本郵便Yの期間雇用社員(有期契約社員)Xが、外務業務手当、年末年始勤務手当、早出勤務等手当、祝日給、夏期年末手当、住居手当、夏期冬期休暇、病気休暇、夜間特別勤務手当、郵便外務・内務業務精通手当について、正社員と不合理な差があるとしてその違法性を争った事案です。  最終的に最高裁が判断を示したのは、❶佐賀事件と同じ夏期

労働判例を読む#234

【日本郵便ほか(佐賀中央郵便局)事件】最一小判R2.10.15労判1229.5 (2021.3.4初掲載)  この事案❶(以下、「佐賀事件」と言います)は、日本郵便Yの期間雇用社員(有期契約社員)Xが、上司らによるパワハラ等による損害賠償請求のほか、基本賃金・通勤費、祝日給、早出勤務等手当、夏期年末手当、作業能率評価手当、外務業務手当、夏期冬期特別休暇、年末年始勤務手当、夜間特別勤務手当について、正社員と不合理な差があるとしてその違法性を争った事案です。  最終的に最高裁

労働判例を読む#52

【猿払村・村長事件】旭川地判H30.5.8労判1188.23 (2019.3.22初掲載) この裁判例は、地域おこし協力隊員として臨時職員として雇われていたXが、1年間の任期の後に再任用された2週間後に解任されたことに対して、権利の濫用であるとして、この解任処分の取り消しなどを求めた事件で、Xの請求を認容しました。 1.判断構造  裁判所は、Yが主張する解任の根拠(①守秘義務違反、②怠業、③勤務成績不良、④身だしなみや態度の問題、⑤女性職員との間の問題、⑥住民等からの