労働判例を読む#234

【日本郵便ほか(佐賀中央郵便局)事件】最一小判R2.10.15労判1229.5
(2021.3.4初掲載)

 この事案❶(以下、「佐賀事件」と言います)は、日本郵便Yの期間雇用社員(有期契約社員)Xが、上司らによるパワハラ等による損害賠償請求のほか、基本賃金・通勤費、祝日給、早出勤務等手当、夏期年末手当、作業能率評価手当、外務業務手当、夏期冬期特別休暇、年末年始勤務手当、夜間特別勤務手当について、正社員と不合理な差があるとしてその違法性を争った事案です。

 最終的に最高裁が判断を示したのは夏期冬期特別休暇の差だけですが、合理性を否定しました。ここでは、最高裁の示した判断枠組みの分析を中心に、検討します。

1.旧労契法20条

(期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止)

第二十条  有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。

 一般に、「労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度」のことを、「職務の内容」と略称し、「当該業務の内容及び配置の変更の範囲」のことを、「変更の範囲」と略称し、これに「その他の事情」を合わせた全体のことを、「職務の内容等」と略称します。この判決でも同様の略称を用いています。

 実際の合理性判断では、検討対象の労働条件ごとに、①制度の性質・目的を確認し、②この①に照らして合理的かどうかを、「職務の内容等」について判断する、という判断枠組みが採用されています。この判決も、この判断枠組みに沿って判断しています。

2.①制度の性質・目的

 まず、夏期冬期特別休暇の性質・目的の認定です。

 ここで特に注目されるのは、夏期冬期特別休暇の性質・目的は、Yの立てた性質・目的そのものではなく、実際の制度の内容から認定されている点です。これは、労判1229.11左側最後の段落で、性質・目的を「年次有給休暇や病気休暇等とは別に、労働から離れる機会を与えることにより、心身の回復を図るという目的による」と認定し、(おそらく)その理由として「夏期冬期休暇の取得の可否や取得し得る日数は上記正社員の勤続期間の長さに応じて定まるものとはされていない」と述べているからです。

 すなわち、Yは1審から、この夏期冬期特別休暇は「正社員に長期雇用に対するインセンティブを付与するために設けられている」と主張していましたが(同23左(キ))、最高裁は「正社員」に着目した制度になっていない点をわざわざ指摘しています。

 夏期冬期特別休暇の性質・目的がこのように認定されたことから、裁判所は夏期冬期特別休暇を与える趣旨が有期契約社員にも妥当する、と評価しました(同11左最後の段落)。

3.②合理性

 次に、この性質・目的に照らして合理的かどうかが検討されます。

 ここで特に注目されるのは、「同一労働同一賃金」に関する「均等」(パート法9条)「均衡」(パート法8条)のうち、「均衡」ルールが適用されている点です。

 それぞれどのようなルールかというと、「均等」ルールは、「職務の内容」が同じ場合には「差別的取扱い」をしてはならない、というもので、より厳しく処遇の同一性が求められます。他方、「均衡」ルールは、「職務の内容等」に関し、当該待遇の性質・目的に照らして、合理性があれば足りるとされており、「均等」ルールに比べると緩やかな基準が適用されます。

 そしてこの判決は、「職務の内容等」(上記略称)に関し、有期契約社員と無期契約社員の職務内容等「につき相応の相違があること等を考慮しても」と断りを入れたうえで、夏期冬期特別休暇の違いを不合理と評価しています。これは、「均衡」ルールが適用されたことを意味します。

 つまり、この判決は、比較的緩やかな基準を適用しながらも、夏期冬期特別休暇の差異を不合理と評価したのです。

4.実務上のポイント

 このように、問題となる手当や処遇ごとに、その性質・目的を(会社の言う建前に拘束されずに)認定し、この性質・目的に照らして合理的かどうかを判断する、という判断構造は、同一労働同一賃金に関して10月13日と15日に下された5つの最高裁判決に共通する判断構造です。

 既に、ハマキョウレックス事件や長澤運輸事件で示された判断構造ですが、この5つの最高裁判決により先例として確立した判断構造であり、旧労契法20条を引き継いだパート法8条も、この判断構造に沿った条文構造になっています。

 特に、手当や処遇について、会社が設定した建前ではなく、実際の制度の内容や運用によって、性質・目的が認定される点は、会社にとって極めて重要です。当たり前のように思われる手当や処遇の性質・目的が自分達の考えているとおり評価されずに、手当や処遇が違法と評価される危険が明らかになったのですから、手当や処遇の性質・目的について、この機会に客観的な視点から検証することが重要です。

5.パート法(参考)

(不合理な待遇の禁止)

第八条 事業主は、その雇用する短時間・有期雇用労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する通常の労働者の待遇との間において、当該短時間・有期雇用労働者及び通常の労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならない。

(通常の労働者と同視すべき短時間・有期雇用労働者に対する差別的取扱いの禁止)

第九条 事業主は、職務の内容が通常の労働者と同一の短時間・有期雇用労働者(第十一条第一項において「職務内容同一短時間・有期雇用労働者」という。)であって、当該事業所における慣行その他の事情からみて、当該事業主との雇用関係が終了するまでの全期間において、その職務の内容及び配置が当該通常の労働者の職務の内容及び配置の変更の範囲と同一の範囲で変更されることが見込まれるもの(次条及び同項において「通常の労働者と同視すべき短時間・有期雇用労働者」という。)については、短時間・有期雇用労働者であることを理由として、基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、差別的取扱いをしてはならない。

※ JILA・社労士の研究会(東京、大阪)で、毎月1回、労働判例を読み込んでいます。

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