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個展カウントダウン<8日>:パリ撮影旅行記〜写真家としての自殺行為と新たな出発

初めての、でも懐かしいパリで、嬉々として撮影に挑んできたお話をしてきました。そして旅程3週間のうち2週間が過ぎた頃に、異変が起こったとまでお話ししました。

その異変とは、相変わらず1日8時間撮影のためにパリを練り歩いていたのですが、突然、写真が撮れなくなったのです。「あ、ここいいかも」と思ってカメラをジェラルミンケースから取り出し、三脚にセットして構図を決め、露出を測ってピントを確認した上でフィルムホルダーをカメラに装填する…、とまで進めても、どうしてもシャッターが切れなくなったのです。写真にする気がなくなってしまったのです。

パリの街並みに飽きてしまったわけではありません。極寒の中、歩くことに疲れたわけでもありません。撮影に対する姿勢も変わったように思えませんでした。でも、どう頑張っても写真が撮れなくなったのです。2日間、頑張りました。でも丸2日、どうやってもシャッターが切れませんでした。そして、疲れ切った私の足は、あの、パリ初日に見て通り過ぎたポンデザールへと向かっていました。あのシテ島の写真を撮っては写真家としておしまいだ、と思った風景を、敢えて撮ることで写真は諦めよう。そう思ったのです。これは、簡単なことではありません。写真家としての自殺行為に近いと思っています。そして撮ったのが、こちらの写真です。

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実を言うと、この写真のシャッターを切ったのは私ではありません。いつものようにカメラをセットして紗幕をかぶってピントを確認しているときに、誰かが後ろから声をかけてきました。このような大型カメラを持ち歩いている人は滅多にいないだけに目立ったのか、ある女性が興味を持って話しかけてきたのです。始めはフランス語で話しかけられましたが、話せないことを伝えると、英語での会話になりました。「なにしてるの?」と少々間の抜けた質問を受け、「写真だよ。撮ってみる?」と言い、シャッターレリースケーブルを渡しました。フィルムを装填し、「いいよ」と言うと彼女はシャッターを切りました。その一枚きりで撮影は終わりました。

それから帰国まで、写真はもう撮らずに出会った彼女と時間を潰していました。彼女の名前はクレアといい、英語でCear、つまりクリア。写真の計画をクリアにしたのが彼女だとしたら、なんという偶然な名前でしょう。彼女は作家志望のアーティストで、毎日朝起きたら数時間は書くことにしていました。私たちはすっかり仲良くなりました。そして、彼女は私に、書くことができるじゃないか、と思わせてくれました。写真では完結できなかったシリーズを、詩で表現してみよう、と思ったのです。

長くなりましたが、今日はこの辺で。次回から詩での再挑戦のお話をいたしましょう。

それではまた次回。

成瀬功

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