艶笑一席

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 ある男が、座敷へひとり芸者をとった。
 障子の隙間からぽつぽつと声がきこえる。
「三味の、音といいますんは、おんなの、ネ、なき声でありまして」
 男は燗を頼んだことも忘れて女の膝へ寝ころんだ。
「だから三味は、おとこがひいてやらんと、いかん」
 女は頸から肩のしどけない恰好を灯にさらして、黙っている。
「たかが楽器一つとったって、相性というもんがあるようで」
 女の笑った気配が障子紙にゆらめいた。
「あんたには俺だぁね」
 外にさした人影に、忍び笑いはふと止んだ。
 折しも庭の竹から雪がおち、燗をつけにきた女将がそちらへ気を逸らす。
 雪の後をおってししおどしがぽぉんと鳴った。
 女将ははっと座敷を透かし見て、なにごとか口の中に呟きながら引き返してゆく。
 きぬ擦れが遠ざかると、障子の隙間が内から、甲、と閉められた。
 そしてまた睦み笑いがしじまにすべりこむ。

えェ、おあとがよろしいようで

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