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またあそぼ


 近所のお宮さんで、男の子に出会った。手には、真新しい虫取り網と虫かご。お母さんも一緒だ。

 思わず、わたしは声をかける。

 「ぼく、何才?」

 その子は、しばらく考えて、

 「なんさいだとおもう?」

 いたずらっぽく笑って、そう言った。

 ほほう、そういうタイプなんだ。わたしはすっかりうれしくなった。しばらく考えて、わたしは言う。

 「5才!」

 「あったりぃ〜!」

 「やったぁ!」

 その子の名前は、たっくん。

 カブトムシがほしいこと、カブトムシよりほんとはクワガタがほしいこと、今着ている服の恐竜はスピノサウルスだということ、別にティラノサウルスの服も持っているということ…どんどん教えてくれる。

 たっくん、きみはおしゃべりタイプか!わたしは、うんうんと相槌を入れつつ、そのはなしをきく。お母さんが横で、合間に合間に、来年は小学校入学だということ、最近、この辺りに引っ越してきたことを教えてくれる。

 それから、たっくんは、わたしの手を引いて、セミの抜け殻を紹介してくれた。わたしは代わりに、セミの穴を紹介した。たっくんは、興味深そうに、穴を見て、また、セミの抜け殻がある木を眺めていた。

 「ここからあっちにいったってこと?」

 「そうだよ。夜、穴から出てきて、殻を脱いで、セミになるの。」

 「ふぅーん。あっ、かえる!かえるだよ!おかあさぁん!」

 ふふふ。いろんなことが気になるお年頃だよね。お母さんにも、無事に、かえるを紹介でき、満足気なたっくんは、わたしに、

 「ねぇ、ゆびずもう、しよ!」

 「いいねぇ。んじゃ、いざ、勝負!」

 たっくんの小さな手を握る。たっくん、あなた、左利きか。手が小さい。かわいらしくて、ち、力が入らない…簡単に負けた。

 「かったぁ〜!たっくんのかちぃ〜。」

 次は、腕ずもうしよって、言う。あぁ、かわいいなぁ。

 左手を握ったら、たっくんが真剣な顔でわたしの手を見た。「むし、いる」ん?なんだって?

 見たら、わたしの腕に、小さな小さな尺取り虫がくっついていた。あっ、ほんとだ。危うく、つぶすところだった。尺取り虫に非難してもらい、いざ、勝負! 

 また、負けてしまった…かわいいと、力って抜けまくるんだなぁ。

 「そろそろ、帰る時間だよ」とお母さん。たっくんは、当たり前のように、わたしの手を取る。

 「いっしょにかえろ、おうちどこ?」

 「あっち。」

 「あっ、たっくんちといっしょ!」

 「たっくん、たっくん、網と虫かご、忘れてる!」

 そう言ったら、ちょっと照れた。

 セミが鳴く中、手をつないで、一緒に帰る。思いがけず、かわいい友達ができてしまった。

 わたしのうちの前で、別れるとき、たっくんが、

 「また、ピンポーン、しにくるね!」

 と笑顔で言う。お母さんが、ちょっと困った顔をする。

 「いいよ!またあそぼ。」

 気づいたら、そう返していた。

 部屋に入ったら、すぐに、折り紙でぴょんぴょんがえるを折った。忘れないうちに。たっくんがいつ来てもいいように。

 久しぶりの折り紙、やっぱり、すっかり、忘れていた。携帯で作り方を調べ、四苦八苦して、ようやく、飛ぶかえるが3匹できた。

 うちの玄関には、ぴょんぴょんがえるが待機中。
 よし!これで、いつでも遊べるよ。



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