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月を見上げながら〜かぐや姫の物語〜


手作りの望遠鏡で、初めて月をみたとき。

ぼこぼことしたクレーター、太陽の光が当たっている部分と影の部分まで、はっきりとみえた。すぐ手に届くかのように近くに!

月を見上げながら、
いつか、きっと、月に行くんだ!
こんなに近いのだもの、行けるはず。

12才だったわたしは、素直に、そう思った。

あれから、もう、36年以上が経つ。まだ、月は遠い。わたしは、相変わらず、同じ場所で、月を眺めているばかり。


アニメーション映画、高畑勲監督の作品、「かぐや姫の物語」をみた。今回で2回目だ。

季節の移り変わり、草花、人の暮らし。富や名誉がしあわせだと言われる社会で、かぐや姫を通じて感じる、その人がその人らしく、生きることへの切望。監督が、この世界をとても愛おしく感じているのも伝わってくる。

かぐや姫は、特別な存在として描かれているけれど、わたしにはそうではないと感じた。この世界に生まれ、成長するにつれて、人は何かに囚われ、思うように生きられなくなってゆく。それは、みんな、そうなんじゃないかな。

お金持ちになっても、もてはやされても、かぐや姫は、ちっともうれしそうじゃなかった。自分らしく生きることを封印されてしまって、とてもつまらなさそう。何回か、そこから逃げ出したけれど、また戻ってきたのは、両親への愛から、だろうか。最後は、限界を迎えてしまったけれど。

かぐや姫は、地球を去る前に、自分が望むものが何だったのか気づく。自分らしく、季節の移り変わりを肌で感じ、自然と共に、大切な人たちと生きること。気づけたことは幸いだ。けれど、やり直しはできなかった。

地球での暮らしを忘れ、辛いことも悲しいこともないだろう、月へ帰るかぐや姫。帰りたくないのに、帰らなければならない気持ち。それすら、忘れてしまうとは…せつなくなる。

見終わって、しばらく経ったとき、ふと、気づいた。誰しも、今の生を終えたら、かぐや姫と同じように、全てを忘れて、この世を後にするのだろう。おんなじだ。けれど、魂だけになっても、何かが結晶のように残ると信じたいな。

冬。満月は、空高く登る。晴れていたら、澄んだ空に、煌々と輝くだろう。



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