覚えていてね
10月半ば。
夫が休日の朝。
夫の顔色がいつもとは違うと気がついた。
思わずわたしは、夫の二の腕を鷲掴みにする。
こうすると、掴んだ相手に熱があるかどうかがわかる。わたしが平常運転であることが前提だ。
うーむ。いつもより体温が低い気がする。疲れがかなり溜まっているみたい。これは、体調不良になりかけているな。
夫に「今日は一日ゆっくりするべし」と強めに告げる。夫は「超能力みたいだなぁ」とやんわり笑う。
難聴持ちのわたしは、家の中に居ても外の音が自然と聞こえてしまう夫の方が、超能力を持っていると思うのだけれど。
9月半ば、夫は左耳が聞こえにくくなった。突発性難聴を疑ったわたしは、平日休みの夫に、「今から即病院へ行くべし」と強く勧めた。
素直に夫は病院に行ってくれ、3週間ほど通い、薬を飲み、聴力は無事に回復した。聞こえにくいままにならなくてよかった。耳のことはどうしたって、敏感になる。聞こえないことは不便だから。
不思議なことに、夫の調子を崩した左耳の聴力は、いつものわたしの聞こえ具合と同じくらいだった。会話に必要な高さの音域が40デシベルほど。
「いつもこれくらい聞こえないんだね。はぁ、大変だ。」
いや、わたしはこれが日常なのでね。しかも、もっと高い音域は65デシベルほどで、もっと聞こえない。でも、慣れれば、なんとかなるものだよ。
調べてみたら、わたしの聞こえは、80代の健聴者の方の平均と同じくらい。補聴器をしても、同年代の聞こえには程遠い。
だから耳には頼らず、目や鼻、ほかの感覚に頼ることが多いのだろう。細かなことに気づきやすいたちで、嗅覚にも自信がある。
夫は今回のことで、わたしの苦労をよりわかってくれたようだ。共感はうれしい。
どうか、その感覚を覚えていてね。
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