ろっくんろーる

「びしょっ」だか

「べしゃっ」だか

明らかに液体が床へとぶつかる音がした。

そこそこ人がいるのに話し声すらしない車両内で、その音はなかなか目立った。

長い8人ぐらい座れる椅子の真ん中らへんに座っていた私は、ふと音の方へ目線だけ動かす。

目線の間に視界に映った数人の人も、同じ方へ目線を動かしたのを確認した。

音の正体はすぐにわかった。

お酒だ。開ける前にふってしまったのか、開けたとたんに中から泡やら液体やらが込み上げてきてこぼしたらしい。

ドア付近に立った、ギターを背負い目の前にもキャスター付きの荷物を置いているおじいちゃんが、こぼれて中身がちょっと減ってしまったであろう缶チューハイをちびたちびと飲む。

慌てふためいていたならば、ティッシュを渡そうかなと考えていたけれど、当の本人はのんびりとお酒を飲んでいるように見える。

気にしていないのだろうか。と見続けていたら、荷物のところにお酒を置き、ティッシュを取り出した。床を拭くのかと思っていたら、濡れてしまった自分のコートをティッシュで拭き始めた。

そっちかー!と心の中で思っていたら、少し背筋を曲げて、床を拭き始める。

ろっくんろーるで、電車の中でお酒を飲み始めても、ちゃんとしてるおじいちゃんにあったかい想いが込み上げた。

ギターを背負っているというだけで、勝手にろっくんろーると思ったけれど、もしかしたらしっとりとした曲を弾いているのかもしれない。

#小説 #日常 #音楽 #ろっくんろーる

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