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「探検隊の栄光」-クズじゃない藤原竜也を求めて-

自分はこの映画レビューをする中で、一つ大きな心残りがあります。それは以前投稿した「Diner ダイナー」の記事に関して、やらしい言い方をすると評価があまり伸びず、その作品の魅力である藤原竜也さんの演技についてあまり伝えられていないのではないか、それがまるで凝りのように、ずっと心に留まっていました。
今回の記事は一応そのリベンジのような立ち位置も兼ねていますので、ご了承ください。

まあ、この記事では「Diner ダイナー」について、ちょっと批判的なトーンで感想を書いていたので魅力が伝わらないのは当然っちゃ当然ですし、この作品こそ藤原竜也のチャームが詰まっている!という映画はわりと沢山あるので迷いに迷いましたが、今回はあえて「世間の藤原竜也に対する大まかなイメージ」と少し差がある作品について紹介したいと思います。

今回紹介するのは、2015年に公開された「探検隊の栄光」という映画です。
「探検隊」というと古くは川口浩さんや藤岡弘さんの番組、最近ではあの「世界の果てまでイッテQ!」での宮川大輔さんの企画が連想されますね。
このように幅広い世代から親しまれている「探検隊ロケ」をテーマにした、荒木源さんの同名小説を映画化したのが本作です。(ちなみに自分は原作未読のためあくまで「オリジナル作品」としての感想になります。この作家さんの「オケ老人」は読んだことあるんですが…)

今回はそんな「探検隊の栄光」を、ディズニーランドのジャングルクルーズで船長さんが頑張る姿に本気で感動してしまいがちな自分が、鑑賞して思ったことを色々と感想としてまとめていきます。

探検隊2

人気が下り坂の俳優・杉崎(藤原竜也)に、伝説の未確認生物(UMA)ヤーガを求めて秘境を探検するテレビ番組の隊長のオファーが舞い込んでくる。その仕事を受けるものの、毒グモとの遭遇や巨大ワニとの乱闘、命がけでの危険なシーンといった演出に困惑する。ところが撮影をこなすうちに、杉崎は番組作りにのめり込んでいき……。(映画紹介サイトより引用)

どことなくギョーカイ人っぽいキャスト陣

まずは例によって、本作の製作陣やメインキャストの方々について触れていきたいと思います。

本作でメガホンを執ったのは、映画「グッモーエビアン!」でも指揮を執ったことで知られている山本透監督です。
山崎貴監督や中村義洋監督などの元で助監督を経験した後に、自身も監督としてデビュー、最近では昨年の2019年、「九月の恋と出会うまで」の監督も担当されています。これはタイムパラドックスとラブストーリーを融合した小説の実写化でしたが、SF部分に関するストーリーの整合性が微妙な出来になっていた印象が強い作品でした。「九月の~」の完成度から推測すると、大きく期待も不安視もしづらい監督さんではありますが、今回はどうだったんでしょうか…。

続いてキャスト陣です。
繰り返しになりますが、本作の主人公・杉崎を演じたのは藤原竜也さん
「Diner ダイナー」の記事でも色々と紹介しましたが、クズの役や命がけの状況に晒される役などを個性の強い演技で見事にモノにしている、いろいろネタにはされがちですが確かな実力と人気を持つ俳優さんです。
今回彼が演じたのは「人気が低迷してきた役者」という自分とは正反対とも言えるキャラクターです。僕が有村昆さんの役をやるようなもんですね。
そして「藤原竜也=クズ、デスゲーム」という不変と思われた法則を覆しかねない普通寄りの役柄でもありますが、決してフィットしていないという訳ではなく、むしろハマリ役と言ってもいい、素晴らしい演じっぷりを見せています。彼らしい立ち回りも残しながらも極端なカイジ感は抑制するという難しい両立をこなせるのは流石の一言です。

プロデューサーの井坂役を務めたのはユースケ・サンタマリアさん
バンド「BINGO BONGO」のボーカルとして全国デビュー後、人気ドラマ「踊る大捜査線」への出演などで人気が急上昇、その後「アルジャーノンに花束を」「あなたの隣に誰かいる」での主演をきっかけにシリアスな演技の実力が評価される一方、レギュラー出演していた人気バラエティ番組「『ぷっ』すま」で見せる自由奔放な一面とのギャップも話題となり、現在まで幅広い活躍を見せるマルチな才能の持ち主です。彼と草彅くんがコンビで揃うだけで胸が躍ります。
本作での役柄は「探検ロケを盛り上げるために、反則的なやり方も辞さない番組プロデューサー」というものでしたが、彼自身のいかにもギョーカイ人っぽい雰囲気とも合致していて、しかもその高い演技力で一層クオリティに磨きがかかったものになっています。一癖も二癖もある役柄を演じることも多い彼の真骨頂といったところでしょうか。

ディレクターの瀬川を演じたのは小澤征悦さんです。「おざわ ゆきよし」さんです。
日本が世界に誇るコンダクター・小澤征爾さんの息子であり、従兄は90年代に大ブレイクしたミュージシャン・小沢健二さんという芸能一家に生まれ、大河ドラマ「篤姫」や人気ドラマシリーズ「ハンチョウ」に出演したことで知名度が上昇、以降実力派俳優として多くのドラマや映画で活躍されています。近年だと一番印象的なのは「もみ消して冬」の長男役ですかね。
個人的な感想ですが、とにかくその見た目の濃さが大きな個性として存在している役者さんだと思います。もはや平成の高橋英樹です。桃太郎侍は是非彼でリメイクしてください。
何が言いたいかというと、普通のサラリーマンよりは社会的地位のある役柄が似合うようなルックスとトークスタイルを持っているので、クセがすごいテレビスタッフという今回の役もかなり合っていると思います。そういえば今回挙げた小澤さんの代表作も、医者に刑事に西郷隆盛と特別なポジションばっかですね。

その他、カメラマンの橋本役には「HERO」のマスター役でお馴染みの田中要次さん、音声と照明スタッフの小宮山役には「ROOKIES」で桧山役を演じた川村陽介さん、ADの赤田役にはドラマ版「デスノート」でブサブサこと、弥海砂役を演じた佐野ひなこさん、通訳のマゼラン役には鉄道大好き芸人としてバラエティ番組に多数出演する、ななめ45°の岡安章介さんがキャスティングされています。田中さんがカメラマン役っていうのが本当にいそうな感じでリアリティありますよね。(笑)

「『いつもの藤原竜也』を演じる藤原竜也」を演じる藤原竜也

次に本作の内容について触れていきます。
この映画は基本的に、探検隊チームのロケの様子とその映像を編集した番組の実際の映像を交互に見せることで、シリアスな番組の雰囲気と実際の現場のテンションの大きなギャップで楽しめる…そんな構成になっています。
これと似たような題材とシステムを使った映画だと、2018年にノーマークの状態から口コミで大ヒットとなった「カメラを止めるな!」がありますが、あちらが「完成した映像」を先に前フリとしてほぼほぼ出し切ったのちに、撮影パートで一気に楽しめるようにするという仕組みだったのと比べると、「探検隊の栄光」は良くも悪くも手堅い構成であったと言えるでしょう。「カメ止め」がいかにハイリスクの状況でハイリターンを獲得したかが分かりますね。

「ピラニアが餌にした人間の骨」が「骨付きチキンの骨」だったり、「獰猛な人食いワニ」が「精巧にできたぬいぐるみ」だったりと、迫力のある映像がとんでもなく安っぽいヤラセの演出によって制作されていく様子だけで、下らなすぎて思わず笑ってしまいます。これその内「現地で伝統となっている祭り」として「スタッフが考えたイベント」を撮影し始めるんじゃないかとハラハラしました。
ロケクルー達がいるのは「べノン共和国」という名の架空の国家という設定なのに、この映画の撮影場所はどう見ても日本国内なのが丸分かりなのも、この安っぽさを際立たせていてある意味正解のチョイスだと感じました。

そしてこのギャップのおかしさを更に加速させているのが、藤原竜也さんが演じる杉崎です。
本業は俳優であり、台本を元にして役作りを行い本番に臨むのが常の彼が、その場のアイデアやオーダーで立ち回りしなくてはならないバラエティロケの世界自体や、指摘するのも馬鹿馬鹿しいほどのヤラセ演出に戸惑いながらも、徐々にロケの楽しさややりがいを見出して本気になっていくという彼の変化を本作は描いている訳ですが、その過程がなかなか面白いです。

ワニ

映画の序盤、いつもに比べてペラッペラの台本に困惑しつつも杉崎が中身を見るシーンがあるのですが、そこには「いつもの大きなリアクションで」としっかり書かれています。まるでいつも藤原竜也が演技でやっているような振る舞いを指し示すかの如く、台本上で発注が出てしまっているんですよ。しかも中盤でもADの赤田との会話で「勝手に熱血キャラだと思われている、そんな役ばかり」と杉崎がボヤくシーンまであります。おい、それ以上クズかデスゲームかの二択しかないオファーの沼に入っている男をネタにするのやめてやれよ!(笑) とうとう映画の作り手側にも半ば茶化されるようになってしまった藤原さんでした。

そして健気にも、杉崎はこの注文通りにオーバー気味のリアクション、要は「いつもの藤原竜也」のトーンで探検隊隊長を華麗に演じています。傍から見れば「あ、また藤原竜也が命がけのシチュエーションにいるな」となりますが、実際にやってる事のしょうもなさ藤原竜也が『いつもの藤原竜也』を客観的に捉える役をやっている状況を考えると余計におかしくてニヤリとしてしまいます。なんか一年分の「藤原竜也」という単語をこの記事で全部使い果たすような気がしてきましたが、とにかく「イメージが固定されつつある」彼を本作に起用したことによって、映画のコメディ的側面がより磨かれて面白いものになったのは間違いないことだと思います。

その他、どこかセコくて人間味のある通訳のマゼランや、ミョーな効果音による抽象的なオーダーしかできないプロデューサーの井坂、そんな男性陣を冷めた目で見つめるADの赤田など、各々のキャラの個性でもある程度楽しめます。音響・照明の小宮山のUMAマニアという設定はさすがに天丼が過ぎてくどさしか無くて要らなかったと思いますが…

本物の熱意ならば人の心を動かせるはず

このように、中盤までは従来の藤原竜也の演技すらも包含したコメディ要素の強い展開が続きます。しかしさすがは藤原竜也、やはり後半になって命の危機に晒されてしまいます
なんと、ロケクルーが入り込んだ洞窟で分かりやすく迷彩服と銃器を持ったべノン共和国の反政府組織と出くわしてしまい、スタッフ全員が拘束されてしまいます。幸いにも政府とは無関係な事はすぐに理解してもらえたけど、解放の条件として今までに撮影したテープとカメラを処分させろと言われる、ある意味最悪の事態に陥ってしまうのです。

ただ、これを切り抜けてこその藤原竜也。
あまりにも酷な条件に加えて、組織のメンバーが探検ロケ自体を馬鹿馬鹿しいと貶め始めた瞬間、ついに憤慨して反撃を開始します。
この反撃のシーン、視聴者からの誤解演者の仕事自体への不安なども全て受け入れてそれでもこの探検ロケに、映像業界の一員としての労働に熱意を持って挑むことを藤原節全開でまくし立てる様子は、「カイジ」や「るろうに剣心」でのキャラクター的な狂気芝居とは一線を画した、藤原竜也という役者自身の心の叫びとも感じ取れる凄まじい熱気を感じました。

洞窟

どんなに安っぽい企画や番組でも、それを作り上げていく熱意は決して安いものではなく、簡単に馬鹿にしていいものではない… かつてナインティナインの岡村隆史さんが「真面目にふざけるのが俺の仕事や」と言っていたのを思い出す、そんなテーマ性がこの映画にあることを感じさせる一幕でした。
そしてここからロケは思わぬ方向に進んでいきます。マゼランがどこまで、杉崎の言葉を反政府軍に伝えたかは分かりませんが、なぜか彼らはスタッフに同情の念を覚え、ロケに協力し出すんですよ。しかも誇り高き反政府軍が渋々やっているとはいえ「原子猿人」の役で出ているんですよ。
これには不思議な笑いがこぼれましたし、その後反政府軍のリーダーがロケに対して真っ当なアイデアを出しちゃうのも面白いです。ここに至るまでの反政府軍の心の動きをもう少し詳しく描写した方が良かったかなぁとも思いますが、とにかく杉崎の熱意が伝わったおかげでピンチはチャンスに変わり、「熱意」が国境や立場を越えて伝わった瞬間でもありました。

そして物語のクライマックス、番組のラストシーンである「三つ首の大蛇・ヤーガが姿を現す場面」を撮影するシーンでは、杉崎たちの熱意の集大成であるこのシーンが実際に人間の心を動かす様子が描かれています。
このシーンで「視聴者」の立場にいるのは、洞窟まで進軍してきた政府軍の皆さんであり、上手くいかなければ一斉射撃に遭う緊迫感もあるのですが、何より「熱意」があるとはいえ、杉崎たちがハンドメイドで作ったヤーガにビビりまくる政府軍の様子はかなり笑えます。杉崎たちの「熱意」が伝わる感動もありながら、その背景を考えるとおかしくて笑える二重の構造になっているのが面白いですね。しかもこの頃になると反政府軍のやつらも立派にロケクルーしていて余計におかしいです。

一応、「リアリティがない」以外の問題点を挙げるなら(リアリティがないとか言い出したらダメな映画な気はする)、AD赤田の余計なパンツ丸出しのお色気シーンだったり、最後政府軍が逃げ出すところで本物のヤーガらしき蛇の存在を匂わせたことで、「杉崎たちの熱意が政府軍を追い出した」ことへの感動がぼやけてしまったなど、細部に粗は見られます。特に佐野ひなこのパンツは絶対深夜にエロ動画見ながら考えただろ!と思うくらい雑に挿入されているので残念でした。
それでも「映像制作への情熱」が、たとえその結果となる作品がどんなにくだらない内容だとしても、多くの人々を動かす可能性を持っているという、本作の最も伝えたかったメッセージは誠実に描かれて届くようになっています。テレビ番組スタッフの熱意が人々を動かすという内容の作品だと、自分が連想したのは長澤まさみさん主演の「曲がれ!スプーン」辺りですが、本作はそれよりも熱さ全開でこのメッセージを伝えようとしている感じがしましたね。「曲がれ!スプーン」がつまらないという訳ではないんですが。
そして実はちょっとだけADとして働いていた経験もある自分には特に、このメッセージは意味を持って届いた気がします。ごめんなさい、性懲りもなくまた唐突な自分語りをしてしまいました。罰として泥水の川で人食いワニと戦ってくるので許してください。

1時間半で十分に楽しめる軽食的コメディ映画

こんな感じで、この映画は安っぽさこそ多分に感じますが、それが逆に味になっているところもあり、また藤原竜也さんの従来とは違う魅力も楽しめる隠れた秀作だと思います!
時間も91分と比較的短くて観やすいので、手軽な気分でご覧になってみてはいかがでしょうか? お家で観る時は、事前にトカゲの丸焼きを作っておいて食べながら観てみるのも一興だと思います。これであなたも、探検隊隊長の仲間入りです!

トカゲ

今回も長文となってしまいましたが、最後までお読みいただきありがとうございます。また次の記事でお会いしましょう。

トモロー

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