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Starry sky

空気が冷たくなって夜空が綺麗に見えると、専門学校時代の友人のことを思い出し心を乱される。

クラスで1番成績の良い友人。
塩顔男子とはこんな感じだろう、という絵に描いたような涼やかなビジュアルで性格も良い。

授業中はいつも居眠りしていた私を、ずっと後ろから見守っていたのだと思うと今になって恥ずかしい。

なんとなく、私はその友人と教室で話すのは場違いなような気がしていて、なぜかお互いにたどり着いて知り合ってしまった、あるサイトの中でいつも話をしていた。

サイトの中でその友人のアバターの見た目はネコで、語尾に”ニャー”などをつけていた。こちらは警察官のアバターで少しイカれた発言をしていたのでお互いにヤバい奴同士という事で話しやすかった。

できることならば、現実の世界でもくだらない話をして笑い合いたかったのだが、休み時間になると決まって数人の女の子達に囲まれる彼。スクールカーストという大きな三角形が頭をよぎり、ああ、私は三角形の”すその”のほうだから駄目だ..。と、休み時間はオタクの野原で日向ぼっこか、瓶底メガネを掛けた女の子達に心霊体験談などを聞いたりしてすごしていた。

あくる日の放課後に、残念な知らせを聞くことになる。

チヤホヤグループの中の子のひとりとネコさんを付き合わせようという計画が、クラスで浮上しているらしく、男女3.3くらいで週一くらいで遊ぼうという内容で、まさかの私がそのメンバーに入ってしまったという知らせだ。

なぜ残念という気持ちが浮かんだのか当時の私には理解しがたく、きっと明らかな陽キャイベントに出るのがダルいだけなんだろうとその感情を流していた。本当に残念な気持ちだった。

そのイベントに参加してみると意外にも楽しくて、女の子達を気にしないでわりとラフにネコさんと話せるのが嬉しかった。しかし..ネコさんのことを好きな子がその場に居たので、やっぱり気は遣った。帰る時はいつも”ギャグ担当”と思わしき男の子と2人で早めに退散した。

あるとき、授業中にサイト経由でメールがきた。

”ポリスさん..今日も○○(ギャグ担当)のことをお持ち帰りするのかにゃ?

その日は集まりのある日で、私はいつもギャグ担当を「お持ち帰り」という名目で連れかえっていた。

”本官の義務だからねぇ、仕方がないのだ

後ろを振り返ると、彼は珍しく机に突っ伏していた

”本当はネコちゃんのことをお持ち帰りしたいのだよ!!!!!!

そう送ると彼は顔をあげて目をあわせてきた。

”やったぁああ♡嬉しいにゃ♡♡

そういうやり取りがありつつ、結局キモい自分に彼の隣は務まらないと思い、いつもの彼と帰ったし、なぜかそのギャグ担当の彼と意気投合して付き合うことなったので、ネコさんもその子と流れで付き合うことになったようだ。

専門学校を卒業して数年後。ネコさんは死んだという連絡が入った。比較的見通しのよい直線道路で、バイクでの事故だったという。朝の通勤時間だったが誰も巻き込むことはなく、1人で横転して死んだようだ。

思えばネコさんは、現実世界で完璧すぎるくらいのアバターを装っていて、その裏側のネコである本性の部分はどこにやっていたのだろう..?

あの時私が、そんな女の子よりネコさんのことを深く知ってしまっているのだと自覚し、本当に「お持ち帰り」していたら、なにか違った未来があったのだろうかとさえも、図々しく思ってしまう。
夜空と寒風にはそういう効能がある。そういうことだ。


手紙:
ネコさんへ。ハッブル宇宙望遠鏡が30周年という事で、NASAがたくさんの綺麗な画像をあげていたよ。今年は土星が接近して、ネコさんの好きな輪っかがとてもくっきり見えていて素晴らしかった。一緒にみたかったねぇ。とりあえずこれは最近の月。(画質が悪くすまない)あとまだ私は人を愛することの本当の意味がわからないから、月が綺麗ですねとは口が裂けても言えない。起こしてごめんね。ゆっくりおやすみ。

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