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【宝石箱の中身】アイノカタチ 

好きな人が、自分の前を歩いているのを見るのが 好きなんだ、と ある人が言っていた。
スタスタと歩いていって、ふと自分の方を振り返ってくれる時が嬉しい、と。


時にぶつかり、すり減って そして また埋めあっていけばいい
MISIA feat.HIDE(GReeeeN)「アイノカタチ」

そこが好きなのか、私は!
私は、埋めあっていけるという希望を、信じたいのだった。

傷つけられたり、傷つけてしまっても なお、一緒にいるよという、ある種の覚悟を持たなくても済むような仕組みを、今の社会は、いっぱい提供してくれている。
簡単な、人間関係のリセット。


まだ、あの人の姿を探している自分に気づき、呆れた。

夏の夕暮れだった。
一緒に歩いているつもりが、自分だけどんどん階段を駆け降りていたことに気づいて、振り返ったら いつも早足のあの人が 優しい眼で私を見ながら、ゆっくりと足を運んでいた。一緒に並んで降りたかったのに、と思うと同時に、その眼差しに照れくさくなって、すぐにまた前を向いて さっさと歩いた。外に出ると、夏の日差しのエネルギーが直に自分を照らしたのが感じられた。視界の端に、ゆっくりと外に出てくる、彼の姿が入って、私もゆっくりと振り向いたら、もう、私の顔を、見下ろして笑う顔がすぐそこにあった。

数日前のMISIAのライブで聴いた『アイノカタチ』が、近くのドラッグストアから聞こえて来た。

明日、会える、という気持ちで過ごす日曜日の夜の私には、月曜日が楽しみで仕方がなかった。
そんな中高生時代を思い出し、大学卒業後、週の始まりが憂鬱だったのは、社会人である平坦な重さのせいだけではなかったんだな、と気づく。

私の、アイノカタチ、であるピースが大きすぎたか、あるいは重すぎたか
今、私は、手元にあるそれを、持て余している。一箇所、大きく抉れてしまった。

その、抉れたところを、いつも あの日の優しいまなざしで埋めて、週の始まりを歩き出す。振り返ってみたって、そこにあの人がいるはずもない。けれど、決まった時間、決まった場所で、私は彼を探してしまう。

ぶつかって、すり減っても、また埋めあっていけるんじゃないかって、思った、あの夏の日は、まだマスクもしてなくて、笑った時だけ頬にできる皺を見るのが好きだった。同じような皺ができる頬をマスクの上から撫でる。

マスクを外せる日が来たら、時を戻せないだろうか。そんなことを思う、2021年の冬。

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