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ずっといたよ


幽霊を信じますか?という先の質問
見えるという人は案外少数派でした。


今から私がお話しすることは
「フィクション」ということにして下さい。

もしこの話を本当だと思いたい人は
自由に信じてもらって構いません。

この話が嘘だと思う人はそう思って下さい。
だってこの話は「フィクション」なのですから。

数年前の話です。

当時仲良くしていた男の子たちが居ました。

少し変わっていたのは、1人は生きていて
もう1人は死んでいました。

というのも、
その子と出会った頃から
その子に後ろから抱きつくように 
その子にべったりの幽霊が居ました。

便宜上生きている方をA
死んでいる方を幽霊くんと呼びます。

私は幽霊はたまに見えたり
意思疎通が出来るくらいで
祓ったりは全く出来ないし
そもそも「そこに幽霊がいる」
なんて言ったら
変人扱いされるのは目に見えているので
ただ無視をしていました。
見えないフリをしていました。

幽霊というのは
常に自分が見える人を探している生き物です。
自分を認識出来る人が居れば
その人に頼んで自分の未練を晴らそうとします。

自分の話を聞いてもらうとか
自分の気持ちを誰かに伝えてもらうとか
やり方は色々です。

でもAと遊ぶたびに
Aの事をより知っていくように
なんとなくその幽霊くんのことも
自然と知っていきました。

本当にどうでもいい情報ですが、
私は生まれつき
そういうものが見えていたのではなく
大きな事故を起こして一瞬あの世を旅行して
それからほんの少しずつ
見えるようになりました。

Aと出会って半年くらい経って
私は幽霊くんのことを 
Aに打ち明けるか悩んでいました。
どうやら幽霊くんはAに伝えたいことが
あるようなのです

幽霊くんはAにべったりなので
Aに会うたび伝えてあげるべきか 
悩み続けました。

Aは私が幽霊くんについて話しても
私を嘘つき呼ばわりしたり
気持ち悪がったりするような子ではないと
思っていました。
でも今ひとつ打ち明ける勇気が出ませんでした。



「ねぇ、幽霊って信じる?」

堪えきれなくなったある日、そう聞きました。
その返答次第で
言うかどうか決めようと思いました。


「まぁいるんちゃうー?見たことないけど〜」

Aはそんな返答でしたが
否定ではありませんでした。

言おう、と思いました。
たぶん私が限界だったのです。


「あのさぁ、違ってたらごめん。
Aの友達で、
なんか可愛らしい女の子みたいな男の子で、
髪がちょっと長くて前髪はパッツンの...
背は低くてロード系のバイク乗ってる...
名前...イ段から始まる3文字...
ひよりみたいな...においみたいな名前...」

「いおり...?なんで日和が伊織のこと知ってんの?話したことあったっけ?」

そう不思議そうに言うAを指差して、
そこにいると私は言いました。

「えっ!?何言うてんの!?」

Aの口は笑ってるけど目は全然笑ってなかった。

「Aの近くにずっといるよ、
少なくともこの半年は。」

そう言ったら頭を抱えて

「えー、いやいやいや、ウソやろ...」

とかなんとか1人でぶつぶつ言ってて
まあそうなるよなって思いました
こうなるのは予想していました
でももう引き下がれなかった

「伊織くんはAとバイクで走るの
すごく好きだって言ってた。
山に登って芝生?みたいなとこで夜景見たり
星見たの覚えてない?
あれすごい覚えてるって...」

「いやいやいや、なんで知ってんの...」

「お墓もう
みんなあんまり行かなくなっちゃった?
まつ毛の長い人が泣いてるの、お姉さんかな?それから女の子1人、男の子3人のグループがよく墓参り来てくれてて...」

「待って待って、なんでそれ知ってんの!?
伊織のこともし日和に話してたとしても、
絶対そこまでは俺話してない!

...なぁ、ほんまにそこにおるん...?」

「やっと気付いてくれた、って言ってるよ」

そう言ったらAは
ぼたぼた涙こぼして泣き始めました。

Aと伊織くんは親友同士でした。

その日は朝まで
伊織くんが私に教えてくれた
半年分の話をしました。

伊織くんの思い出
伊織くんの秘密
伊織くんの気持ち、未練
伊織くんのことが好きだった子の話
伊織くんがAのことをどう思ってたか
伊織くんの家族の話
どうして伊織くんが成仏出来ないのか

Aは黙って私の話に耳を澄ませて

「私の話ウソだと思わないの?怒ってない?」

って恐る恐る聞いたら

「いや、日和は伊織のこと知りすぎてる...」

って言った

伊織くんはバイクの事故で死んだ
寒い日に1人で走って路面が凍ってて
それで滑ってしまった

近くのコンビニの防犯カメラに
何かに気付いたみたいに
突然急いでコンビニから出て行く
伊織くんが映ったいたらしい

「バイク仲間でも見かけて
急いで追いかけたんかもしれんな」

Aがそう教えてくれた

「あのね、伊織くんが追いかけたのはね...」

そう言いかけて慌てて口を塞いだ
私は知ってた
伊織くんが何を追いかけて
どうやって滑って
ひとりぼっちで
どういう風に死んだか

何回も何回も
まるで自分が伊織くんであるみたいに
リアルにその光景も感触も痛みも恐怖も
私は感じた

でもそれは幽霊とかいう
完全に非科学的なもので
私は伊織くんがあの日追いかけたものを
知ってるけど
絶対口に出しちゃいけない気がする
それが本当かなんて誰にも分からないし
もうその事故は事故として片付いた

それが本当である根拠も証拠もない
もしかしたら全部ただの私の妄想で
それが偶々当たったという偶然かもしれない



Aの気持ちの整理がついた頃
伊織くんのお墓参りに行きました
私はこの場所を伊織くんに教えられて
初めてきたのによく知っていました


「こんなところで俺はじっとしてない」
と伊織くんは言いました。
伊織くんは寂しがり屋なので
誰かに張り付いている方が好きなのです。


私の友達に
生まれつき幽霊が見える子がいるのですが、
その子にチラッと伊織くんの話をしたら

「あー、小柄でバイク乗ってる子?」

って返されて
やっぱり見える人は
言わなくても分かるんだなぁと
思ったりはしました



それから
途中で気付いた人もいるかもしれませんが
Aは悟です



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