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しょっぱいケーキ

私には兄と姉がいます
でもそのうち私だけ何故か
「よその子」と呼ばれ両親や親戚から
忌み嫌われていました
それがどういう意味かは未だに分かりません

私の親は私のために
誕生日ケーキを買ってくるような
親ではありませんでした

私と違って
兄や姉には誕生日ケーキがありましたが
私のためにケーキを切り分けてくれるような
親ではありませんでした

私はただ家族が和気藹々と食べているのを 
涙を堪えて涎を垂らして
見ていることしか出来ませんでした

私はそれが惨めで、つらくて 
どうして私は生まれてきたんだろう、と
誰かの誕生日や
自分の誕生日のたびに強く思うのでした

でも私には救いがありました

ケーキの日の夜は
必ず兄と姉が夜中に私を連れ出して
ファミレスに連れて行ってくれました

「日和なんでも頼んでええぞ、何個でもええぞ」

お兄ちゃんはそう言ってくれるけど
私はみんなが食べていた
大きくて丸いホールのケーキが食べたかった
しかも自分の歳の数のろうそくが
刺さっているやつです

でもメニューのハジからハジまで目を通しても
ファミレスのメニューにそんなものはありません

中々私が決められないでいると
お兄ちゃんとお姉ちゃんは

「ほら!ケーキあるぞ!
チョコレートもいちごが乗ってるのも!」

「パフェでもいいよ?どっちも頼む?」

とか気を遣って聞いてくれるけど
私が欲しいのは三角形のケーキじゃないのです
丸い形のケーキなのです

私はこのワガママを、
こんなくだらないこだわりを
誰にぶつけていいか分かりませんでした

ただ兄と姉は
私にこんなことをする義理なんてなくて
優しさでしてくれていることは
幼いながらに分かっていました
だから兄と姉にわがままを言って困らすことは
絶対にいけないと知っていました

私が何も言わないから
兄と姉はさらに気を遣って 

「じゃあ全部頼もう!」

って毎年スイーツのページを 
全部頼んでくれました

もちろん
テーブルは甘いもので溢れかえるのですが
それでも私の欲しいものは
テーブルの上には載っていないのです

そこまでしてもらっても子供のように
はしゃいだり喜んだりすることなく
ただ暗い顔をしている私はなんてワガママで
可愛げのない子供だったことでしょう

食べようとしない私にお姉ちゃんは
ケーキをスプーンですくって
口元まで持ってきて食べさせてくれました

口についたホイップクリームを
愛おしそうな顔で拭いてくれるのは
お兄ちゃんの役目でした

「赤ちゃんみたいやなぁ、日和」

私はそんな2人の愛おしい声を聞きながら
嬉しくて悲しくて悔しくて苦しくて
いつもボロボロ泣きながら食べました

涙が頬を伝って口の中に入って
ケーキの甘い味と
涙のしょっぱい味が混じるのです

その奇妙な味を味わいながら
私はいつも思うのです

お母さんが丸いケーキを私のために切り分けて
大きいやつを日和のにしようねって
言って欲しかった

お父さんとお母さんが
私に自分の分のイチゴをくれて
お兄ちゃんとお姉ちゃんに
日和だけズルいって羨ましがられたかった

「Happy Birthday 日和ちゃん」
ってカッコいい文字で書いてある
チョコレートのプレートを食べてみたかった

願い事をして
自分の歳の数のろうそくを
一息で吹き消したかった

しょっぱくないケーキが食べたかった

そんなワガママを飲み込んで食べる
三角形のケーキは
甘い味よりしょっぱい味の方が勝っていました

悲しい時の涙はしょっぱいのだそうです

それでも私は
お兄ちゃんとお姉ちゃんに

「美味しい?」

って聞かれたら

「甘くて美味しい」

って泣きながら答えるのでした

丸いケーキなら
きっともっと甘くて美味しいはずなのに

そんな甘くてしょっぱいケーキの思い出







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