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私は誰の子


私の家は古い田舎の家で
母方の親戚は平和なものですが
父方の親戚は本家と分家がありまして
私は分家の人間でした。

私には兄と姉がおりました。

賢く顔が良く人当たりのいい長男
可愛らしく愛想のいい次女
そして三女の私。

私は分家で外孫でしかも3番目の女なので
1番地位の低いポジションです。

さらに私は「よその子」だそうです。

それが本当かは分かりません。
ハッキリどういう意味かも分かりません。
ただそう呼ばれていました。

それが本当であれ嘘であれ
そういうことにしておいた方が    
一家にとって一族にとって
何かと都合がよかったのでしょう。

つまり私は「どちらでもいい子」なのです。


私は兄と姉とは随分歳が離れていました。
兄と姉は歳の離れた私をとてもよく可愛がってくれました。
よその子と呼ばれ忌み嫌われている私を
憐れんでいたのかもしれません。

兄と姉は歳が近くよく喧嘩をしていましたが
「喧嘩するほど仲が良い」
を体現したような関係でした。

私は兄と姉が大好きでした。
暖かくて優しくていつも守ってくれて
父と母より
父と母のようでした。



私の一族は見た目を物凄く重視します。
代々そうなのか、
親戚もみんな綺麗で顔が良く
美しい顔と美しい顔の間に生まれた子供は
必然的に美しかった。
端的にうちの一族は醜いもの、具体的に言うとブスとデブが大嫌いでした。

そんなうちの家系は
女の子は太りやすいからと言って
飯を与えないのがルールでした。
結局親の甘さで
飯が与えられることもありましたが
それは姉だけで
よその子である私には
一切与えられませんでした。

よその子なのに育ててやっているんだから
もしこれ以上太ってブスに育てば
本当に家を追い出してやる
と脅されていた私は
本当に家では何も食べませんでした。
というより食べさせてもらえませんでした。
もし盗み食いをしようものなら
吐くものが胃液に変わるまで
吐かされ続けました。

空腹というのは  
惨めでひもじくて本当に辛いことでした。

せっかく始まった生理はすぐに止まり
私の体重がやっと40kg代に乗ったのは
実家を出てからの事です。

兄がどうして日和は飯を食べないのか聞くと
女の子は殆ど食べないものなんだ
と母は言いました。

兄は
そうか、だから女の子はみんな華奢なんだと
屈託なく笑い
私の前でガツガツと飯を食べ
おかわりをしました。

兄はとても賢い人でした。
そして優しい人でした。


「死ねよクソババア」

そう怒りながら
隙を見て私を夜中にコンビニやファミレスに
連れて行ってくれました。
女に飯をやらないというのは
本家でも分家でも共通のルールで
兄がそこで母に何かを言っても
どうにもならない問題でした。

「日和よく食えよ。
日和はよその子じゃないぞ。
兄ちゃんと、ちゃんと血繋がってるからな。」

そう言って励ましてくれるけど
私はあんな人たちと血なんか繋がっていなくても
別にいいと思っていました。


母は私のために何かをしたことが
殆どありませんでした。

遠足の日の朝、
母は私に弁当を作ってくれなかったので
私は姉に泣きつきました。
姉は私を慰めながら母の代わりに
とても可愛らしい弁当を手早く作ってくれました。
なんとか遠足に遅れずに済んだのは姉のおかげです。

兄はそれを聞きつけて母に抗議しました。
すると

「日和が私の作るものは食べたくないって言ったのよ、本当日和って可愛くない。私、日和きらぁい。生まれてこなきゃよかったのに。泣き顔も本当に不細工、気持ち悪い。」

そう言って母は蔑むように笑いました。
そして思い切り私の顔をビンタしました。

私は母の作ったものを食べたくないなんて
一言も言っていないのに
むしろお母さんのご飯食べたいって
何度泣いたことか
もう悲しくて悔しくて
何か言おうと思ったけど何も言えなくて
ワナワナと震えていたら
呼吸がだんだん荒くなって
どうやって息を吸って吐いていたのか
分からなくなりました。

過呼吸でした。

小さかった私は
本当に死んでしまうのかと思ってとても怖かったのを覚えています。

私の荒い呼吸混じりに
兄の母を責める声と
母の泣き声が聞こえて
姉がそっと耳を塞いでくれました。
それでも私の耳と姉の手の隙間から
その声はしぶとく聞こえてきました。


それより私がうんと小さいころ
3人の秘密だよって
裏の山にある
もう使われていない屋敷に
兄と姉は連れて行ってくれました。

私の家は分家でも
山や別荘といった財産を所有していました。
それはそのうちの一つで
恐らく将来的に兄が姉が継ぐであろうものでした。
兄と姉がその屋敷の鍵を所有しているのが
その証拠です。

兄と姉はあの堅苦しい家から
逃げ出したい時ここに来ているようでした。
それでも
「ここは3人の秘密基地だよ」
と兄と姉は言ってくれました。

私はうんと小さかったから
鍵は預けてもらえなかったけど
その言葉だけで充分でした。
秘密基地というのは、
私くらいの年齢の子供にとって
もっとも心躍る言葉でしたし
兄と姉は父と母には絶対に秘密だと
私に固く口止めしました。

私はその秘密という責任を孕む言葉に
兄と姉に認められたような
肩を並べられたような
誇らしい気持ちになりました。

それからしばらくして
モノの分別が分かり始めたくらいの頃
父と母に折檻されていた時のことでした。

父と母はその頃ずっと虫の居所が悪く
いつも庇ってくれる兄と姉はちょうど不在で
子供ながらに本当に殺されてしまうと思いました。

隙を見て
大人が通れないような塀の小さな抜け穴を通ってなんとか逃げました。

その頃私の食事は基本的に給食だけでした。
だから同じ歳の子と比べても
すごく背が小さくガリガリでした。
だから抜け穴を通ることなんて
造作もないことでした。

行く当てもない私に1つだけ
当てにできる場所がありました。

小さい頃教えてもらったあの秘密の屋敷でした。

もうその時は夜で
山に登るのは怖くて怖くて
でも私には父と母の方がもっと恐ろしかった。

どうにか屋敷にたどり着いたけど
私には鍵がありません。
なんとか中に入れないかと
しらみつぶしに窓やドアを開けて回りました。
絶対に閉まっていると思って
後回しにしていた玄関だけが何故か開いていました。

嬉しくて「やった」と声が出そうになりましたが
もし泥棒だったらどうしよう
父と母が先回りして待ち構えていたらどうしよう
そう思うと血の気が引いて
そろそろとドアを開けました。

屋敷には電気は通っていませんでしたが
井戸は通っているし
掃除をすればすぐに住めるくらい
家具や食器がそのまま残されていました。

私は暗い中そろそろと屋敷を歩きました。
暗くて怖かったけど
父と母、それから泥棒なんかが居ないと  
確認しなければ
もっともっと怖い目に遭うと思いました。

耳を澄ませると2階から声が聞こえました。
2人の話し声
兄と姉だと直感しました。
安心したと同時に
でも私は除け者にされた感じがして
少しムッとしました。

だからゆっくり忍び寄って
脅かしてやろうと思いました。

階段をゆっくり登ると
兄と姉は誰も来ないと安心しているのか
ドアを開けて話していました
バレないようゆっくり近づくにつれ
兄と姉が話している内容が鮮明に聞こえてきました。

なにか真剣に話しているようでした。
いつもの明るい声ではなく低く湿った声です。

「日和が... 」  

私の名前が聞こえてきて一瞬びっくりしました。
でも私に気付いたわけではなさそうです。
私はさらにゆっくり近づきながら
真剣に耳を傾けました。

兄と姉の姿が目視できるぐらい近付いた時
その話の内容もハッキリ聞こえました。

2人は私に気付いてはいません。
でも私は2人をハッキリ見ながら
動けなくなりました。

2人は埃っぽいベッドの上に座っていました。
何故か2人とも服は着ていませんでした。
だから寒いのか兄が姉の肩を組んで
姉は兄を抱きしめるように手を回していました。

小さい私でも
見てはいけないものを見た事は分かりました。
それでも目が離せませんでした。

それから
「日和が可哀想だ」
とか
「自分たちの養子にしてこの家から抜け出せないか」
とか
そんな話をしていました。

私と兄と姉の歳の差は
私が兄と姉の子だったとしても
ギリギリ
辻褄が合ってしまうくらいの歳の差でした。

私がよその子と言われて
忌み嫌われている理由

私はよその子なのに
兄と姉だけが私に優しかった意味

兄と姉は周りと比べて
ズバ抜けて顔が良くて華があるのに
恋人を作らない理由  

幼いながらも何かが全部繋がって
自分が壊れていく音がしました。

でも私は何も知らないフリをしました。
知らないフリをし続けて大きくなりました。

兄と姉は就職をきっかけに
吐き気がするほどのこのクソ田舎から出ました。

最後まで私を心配してくれましたが
私が追い出しました。

誰が認めなくても
2人に幸せになって欲しかった。

2人は今同じ家で幸せに暮らしています。
私にだけ住所を教えてくれました。
それだけで十分です。

本当は長兄が家業を継がなければいけなかったけど
家業より鼻の高い仕事に就けたので
親が家業より見栄を選んだのでした。
姉も同じ理由で家業を継がずに済みました。

兄と姉が家を出ると
待っていたかのように
父の性欲の矛先は私に向きました。

もしかしたら私は父の不倫相手の子かもしれません。
父は不倫相手に未練があって
それを私に重ねているのかもしれません
もしかしたら私の顔は
父の不倫相手によく似ているのかもれません。

父が不倫するのは日常茶飯事でしたし
私は実家を出るまで不倫や浮気をしない男性がこの世に存在することを知りませんでした。

父の私への可愛がり方や
母が私を忌み嫌う理由
これも辻褄が合うのです。

父が私に触れるたび
母はそれを全て把握しているかのように
より私の扱いを酷くしたように思います。
そして昔よりずっと精神的に不安定に
なっていきました
私の記憶の最後の母は泣いていました。

これはまだ私が幼い頃の記憶です。
もしかしたら夢の中の記憶かもしれませんが
小さすぎて現実かどうかハッキリしません。
ただ
母が兄の上にまたがって
兄は泣いていた
そこだけ断片的に強く覚えているのです。

そして憶測ですが
姉が家を出た途端
父が私と関係を持ちたがったという事は
私は姉の代わりで
姉はずっと
父の相手をさせられていたんじゃないか
とも思うのです。

では私は一体誰と誰の子なのでしょうか。
容疑は全員にかかっています
もしくは本当にこの一族とは
全く関係のない生まれかもしれないのです。

そしてこんなに私を邪魔者扱いするのに
養子に出さなかったのにも
きっと訳があると思うのです。

1、実の子が家業を継がなかった際のスペア
2、一家もしくは一族の誰かと血が繋がっているから

私は未だに誰にも本当のことを聞けないでいます。
この先もずっと聞くつもりはありません。

うちの一家は身内同士でどうしてこうも
家族としてではなく
恋人のように
求め合えるのでしょうか。

やたらと顔だけを重視して血を集めた罰でしょうか。
それとも単に身体の快楽や誘惑に弱いのでしょうか。

その一家の罰として私は
家族愛も恋愛も
酷く恐ろしく
気持ちの悪いモノに思えるのです。

私が家族を恋愛対象として見れないのは
父とのセックスが気持ち悪いと認識出来るのは
「よその子」だからでしょうか。

母や姉や兄を抱けば
家族として認められるのでしょうか。

どこの誰が
こんな汚く気持ち悪い私の過去を
受け止めてくれるのでしょうか。

もし受け止めてもらえたら
そこに幸せはあるのでしょうか。

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