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遠足の弁当持ってこれない奴

私の幼なじみは揃いも揃って家庭環境が悪くて

ネグレクト
虐待
性的虐待
精神的虐待

それぞれ違ったけど 
とにかく私たちは親からの愛情に飢えていて
親から愛されようと努力しては
辛い現実を突きつけられて
いつも寄り添って慰めあっていた

私たち幼なじみはいつも助け合っていた

いつも馴れ合っていた訳じゃないけど
遠足の日はいつもの仲のいい友達じゃなくて
幼なじみで揃って食べた
それは友情なんかじゃなくて
弁当を持って来られなかった誰かが必ずいるからだった

親じゃなくて自分で作った弁当
冷食と惣菜だけで構成された弁当
米だけの弁当
朝コンビニで買ってきた弁当
食パン一斤
 
それをみんなで分けて食べていた 
他の子にバレないように、見られないように

常識を知らない私たちも
なんとなく自分達が常識から外れていることは気付いていた
それを恥ずかしいとすら思っていた

だから決めた
普通にしようって
まるで普通の家庭に生まれ
親に愛されているように振る舞おうって

私たちは助け合って 
なんとかギリギリ飢えることなく
中学生になれた

学校ではお互いあまり話さないけど
小さい頃から慰めあって兄弟みたいに支えあってきた

そんな家庭環境だったから
分かりやすく非行に走った奴も居たし
裏でヤバいことしてる奴も
極端に大人しくなった子も
器用に人間関係を作っている子も
抜け出したい一心で勉強に励む子も
色々だったけど
それでも私たちの仲は続いていた 

自分たちのキャラクターを持って
普通に振る舞うのも板についてきたと思っていた
そんな時
幼なじみのさやかがヘマをした

「私のお父さんすっごく私のことが好きでね
いつも一緒にお風呂に入るんだ。いつもくすぐってきたりしてお風呂で一緒に遊ぶんだ!」

って自慢したらしい

さやかは本物のアホで天然で正直で 
めちゃくちゃ顔は可愛くて
少し女子に嫌われがちの
不器用な子だった
でも私たちはそんなさやかが大好きだった

なのにそれを聞いていたさやかの友達は
次々にさやかに
キモいとか不潔とかファザコンとか
もっともっと酷い言葉を投げかけた

噂に尾ひれがついて
もうその日のうちには
「さやかは父親とセックスしてる」
という噂で学校は持ちきりだった

さやかは
「父親が年頃の娘とやたらと風呂に入りたがるのはおかしい」
とか
「普通の父親は年頃の娘の裸をベタベタ触ったりしない」
ということを知らなかった
それどころか、風呂に入っている間だけは父親が愛情を向けてくれるから嬉しかったらしい

さやかに、私たちに
普通の愛情は分からない

私たちはさやかがその事件以来
変な噂を流されたり陰口を言われたり
先輩に襲われそうになったり
散々な目にあった

さやかは毎日毎日泣いていた

私たちは
さやかを守らなきゃと思った
でも
自分もヘマしたらこうなるのかと
強い恐怖を感じたのも事実だった

私たちは自分の持てる人脈や力を駆使して
一生懸命さやかを守った
うるさい奴らが静かに大人しく過ごすまで
さやかを自分たちのやり方で守り抜いた

それで結局私たち幼なじみ一同は
さやかも含め
加害者として校長室に呼ばれて
さやかに酷いことをした奴らは
被害者という扱いを受けた

さやかはずっと泣いていた
私たちはただ悪戯にさやかを傷つけて
おおごとにしただけなのかもしれない

私たちはやり方を間違えたのかもしれない
でもどうやってさやかを守ったらいいのか
誰も教えてくれなかった

先生たちは私たちだけでなく
私たちの親も学校に呼び出した
でも誰の親も学校には来なかった

帰り道なんとも言えない気持ちで
私たちは帰った
私たちを正す先生も叱る父親も慰める母親もいない
子供だけの真っ暗な帰り道 

毎日歩いている道なのに
どうやって帰っていたのか分からなくなりそうだった

でも唯一よかったことは
その件以来、案外私たちはすんなり
学校生活に戻れたことだ

私は友達だけは多かったから
私に相談や秘密を打ち明けた子たちが
学年中に居て私にバラされないか
ビビっていたらしい

お前らは親の金で買った
親が月々の金も支払ってるケータイで
授業中も夜中から朝まで関係なく
私が自分で必死こいて支払ってるケータイに
病んだとか
彼氏と別れるとか
彼女とセックスしてぇとか
クソみたいな相談聞いてやってんのに

それでも
多少ムカついたからって
私が友達の秘密をバラしたりする訳ないのに 

しょうもなって心底思った
一生私にビビってろよ

でもそんなところが
人間の愚かしくて可愛らしいところでもあるんだけど

 ほんと世の中公平じゃない

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