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「多文化共生・国際教室」研究会

 昨日(1月10日)、横浜市立南吉田小学校(横浜市南区)で開催された「横浜市立小学校 多文化共生・国際教室研究会」に参加させてもらった。

【注1】
横浜市立小学校教育研究会は、横浜市立小学校の教職員や管理職で構成される任意団体である。

同研究会には、教科・領域・教育課題ごとに部会(各研究会)が設けられており、「多文化共生・国際教室部会(研究会)」もその一つである。

原則として、毎月第一水曜日の15時30分〜16時45分が市教育研究会の活動日となっており、参加する場合には業務出張扱いとして交通費も支給される。

各部会では、毎年12月に授業研究会を実施しており、その日は授業の公開に合わせて開始時刻が早められる。

 昨年度にこの研究会を立ち上げた南吉田小学校の金子正人校長は、教諭時代、外国にルーツがある児童が多く在籍する横浜市立いちょう小学校(現・飯田北いちょう小学校)で多文化共生や日本語指導などの実践を積み重ねてきた方である。

 現在、金子先生が校長を務めている南吉田小学校も、外国籍や外国にルーツがある子どもたちが多い学校として知られている。

南吉田小学校の校門

 この日の研究会には、横浜市内の小学校から約60名の教員が参加していた。その大部分は「国際教室」の担当者で、参加者の約8割が女性である。

【注2】
横浜市立の小中学校では、日本語指導が必要な児童生徒が5名以上いる場合、「国際教室」を設置するために教員が1名加配される。また、該当する児童生徒が20名を超えると、さらに1名が加配される。

 研究会の前半は、ブロックごとに4つの教室に分かれて情報交換をする時間に充てられていた。横浜市の教育委員会は、市内を東西南北の4つに分け、それぞれに学校教育事務所を設置している。毎回、そのブロックごとに分かれて情報交換を行うことが恒例となっているのだ。

 といっても、参加者が多い「東部ブロック」は2つの教室を使い、逆に人数が少ない「南部」と「北部」は合同で1つの教室に集まっていた。これは、会場校である南吉田小学校が「東部」の域内にあることに加えて、このブロックには工場が多い鶴見区、古くから外国人が多く居住する中区や南区があり、「国際教室」を設置している学校が多いという事情もあるのだろう。

 たとえば、ある教室では「この4月に入学する新1年生に外国籍の児童がいるが、入学までに購入してもらう物品について保護者にどうやって説明をしたらよいか?」という質問が出ていた。すると、参加者のなかから「実物を見せながら説明をするとよい」「説明するときに、通訳ができる保護者に同席をしてもらった」という実践例が報告される。このように、それぞれの教室では活発な情報交換が行われていた。

 その後は、「多文化共生」「教科指導」「初期指導」の3つの部会に分かれ、実践報告やグループ協議が行われた。それぞれの部会を3分の1ずつしか見られなかったが、そのなかで印象的だった内容を記しておきたい。

「多文化共生」部会
【テーマ】職員向け研修のあり方
・一般の教職員に「国際教室」のことを理解してもらうのは簡単ではない。
・多忙化する学校のなかで、「国際教室」について周知するための研修の時間を確保することは難しい。
・管理職や教務主任などの「国際教室」に対する理解度や考え方についても、学校間の差が大きい。
・特別支援教育や不登校傾向などで配慮を要する児童のことと同じように、外国にルーツがある児童についても職員会議等で情報共有することを大切にしている。
・「国際教室」に対する教職員の理解度が、そのまま日本人の子どもたちの「国際教室」に対する理解や関わり方に直結する。粘り強く取り組んでいきたい。

「教科指導」部会
【テーマ】漢字指導のあり方
・日本人の子どもでも、小学校の6年間で1026字の漢字をマスターすることは難しい。外国にルーツがある子どもたちには、なおさらである。
・「国際教室」の授業で漢字を短期記憶させることはできても、それが長期的に定着するかどうかとは別問題である。
・音読みの漢字や熟語については、具体的なものと対応させることが難しく、イメージをもたせにくい。
・同音の漢字や、「休」と「体」のように似ている漢字の習得で躓く子が多い。
・書き順や「とめ・はね・はらい」にまでは指導の手が回らない。
・今は便利な「漢字アプリ」もある。漢字を「書くこと」は二の次にして、まずは日常の生活や学習との関連が深い「読むこと」「見て意味をつかむこと」ができればよいのではないか。
・ルーツが漢字圏の国かどうか、家庭で日本語をどの程度使っているか、などによっても漢字の習得状況は左右される。

「初期指導」部会
【テーマ】実践提案をもとにした協議
・「運動会」を例にすると、母国にそういう文化がない児童や保護者にその意義をつかませることは難しい。「行進」「整列」など、日本人には当たり前のことが、けっしてそうではない。似たようなことは、運動会以外の場面でもたくさんある。
・外国にルーツがある児童に対する指導には、特別支援教育との共通点もあるが相違点もある(「できないこと」の原因が「理解」によるものなのか「認知」によるものなのか、等)。
・「国際教室」の学習と所属するクラスでの学習とをつなぐことが大切である。クラスの国語の学習で物語文を扱っているならば、同じ題材を平易な内容にして「国際教室」でも扱うとよい。そうすると、「国際教室」に参加する必要感とともに自己肯定感も高まる。

南吉田小学校の校舎内(階段)

「国際教室」の設置や運営にあたって、市教育委員会からはガイドラインが示されている。しかし、実際の取組は「国際教室」に在籍する児童数、子どもたちのルーツがある国、日本語の習得状況、担当する教員の知識や経験などによって左右され、学校ごとに創意工夫をすることが求められている。

 そうした状況のなかで、この「横浜市立小学校 多文化共生・国際教室研究会」が果たしている役割は、けっして小さくないだろう。これからもこの研究会の活動に注目をしていきたい。

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