テクノロジーを活用した新しい学校体育《成果報告会》
3月2日(土)の18〜21時に、VR・メタバースなどの「テクノロジーを活用した新しい学校体育」に関する成果報告会が開催された。
これは、東京学芸大学の鈴木直樹研究室が中心になって取り組んできた実践研究について、今年度の成果と課題を総括する報告会であるとともに、その普及や啓発を図るための会でもある。
報告会はメタバース上で開催され、各地から約40名の参加者が仮想空間に集まった。
18時からスタートした第1部の前半では、
・メディアポートフォリオ
・同期型遠隔体育
・非同期型遠隔体育
・eAssessment
・メタバースダンス
・メタバース球技
などに関して、「新たな連携」「インクルーシブ教育」の2グループに分かれて、小学校や特別支援学校などの関係者からポスター・セッション形式での実践報告があり、その後はこれらの報告をもとにした意見交換が行われた。
また、第1部の後半では、実践報告や意見交換の内容を踏まえて、
・加納寛子氏(山形大学 准教授)
・中村めぐみ氏(つくば市立みどりの学園義務教育学校 教頭)
・安井政樹氏(札幌学園大学 准教授)
の3氏によるパネル・ディスカッションが行われた。
さらに、20時からは第2部として、世界の構成主義的な体育の研究をリードする University of Michigan の Weiyun Chen 先生による記念講演があった。
(残念ながら、私は都合により視聴することができなかったが、その内容については記録などをもとにして勉強をしたいと思っている。)
今回の報告会をとおして。特に印象に残ったことを2つ書き記しておきたい。
「バーチャル」と「リアル」の往還
プロジェクト・リーダーの鈴木直樹氏は、以前に行った講演のなかで「VR平均台」の実践について紹介をしていた。その内容は、小学生を対象に「VR平均台」の活動を1回30分ずつ3回に分けて行ったところ、「閉眼片足立ち」の平均タイムが2倍以上に伸びたというものである。これは、「バーチャル」で身に付けたバランス感覚が「リアル」の身体操作に転移したことを意味していると言える。
しかし今回、特別支援学校の関係者による「VR卓球」の実践報告では、生徒たちが意欲的にバーチャルでの活動に取り組んでいたという反面、授業後の
「VR卓球の経験を実際の卓球(リアル卓球)に活かせましたか?」
という質問に対しては、「活かせたと感じる」「どちらかというと活かせたと感じる」という肯定的な回答をした生徒の割合が、合わせても全体の5割に満たなかったという。
「バーチャル」と「リアル」の往還における人間の認知や身体操作の問題については、今後も実践的な研究を重ねていく必要があるだろう。また、その結果は今後のこうしたテクノロジーの普及にも大きく影響をしてくると思われる。
点と点をつなぐ実践
パネル・ディスカッションに登壇した3氏は、いずれもICTを活用した教育に関する第一人者である。その一方で、不登校の児童生徒への支援、小学校での授業実践、道徳教育などの異なるフィールドで活躍中の方々でもある。三者三様の視点からの感想や意見、問題提起からは多くの示唆をいただいた。
VRやメタバースを活用することによって、「実体験に近い学び」「時間や空間を超えた学び」「現実の世界ではできない学び」「アバターによって別の人格になって行う学び」などの可能性が広がり、すでに多くの実践が積み重ねられてきている。
けれども、そうした実践は、
「体育科でのVRの活用」
「不登校の児童生徒への学習支援の場としてのメタバース」
というように、それぞれの教科や利用目的などの枠組みのなかで閉じられたものになりがちである。言い換えれば、それぞれの実践が別々の「点」として存在しているのだ。
だが、今回はパネリストのなかから、
「不登校の児童生徒に、バーチャルの運動経験を提供する」
という「点と点」をつなぐような具体的なアイデアも出されていた。
今後も、様々な分野の関係者が連携や協働をしていくことが、「点と点」を線や面にしていくのだろうと思う。
今回の成果報告会で学んだことを、私自身も今後の活動に活かしていきたい。
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