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文部科学省がNHKに送った“抗議文”を読んでみた

 公立学校教員の長時間労働の是正や給与制度の改正などについて議論してきた中央教育審議会の特別部会が、5月13日に具体案を盛り込んだ「審議のまとめ」を了承した。

 当日、報道各社がこのニュースを報じたが、4日後の5月17日になって、文部科学省がNHKに対して初等中等教育局長名で”抗議文”を送るという異例の事態になっている。その全文は次のとおりだ。

 文部科学省が問題視している報道の内容は、NHKのWeb記事から読むことができる。

 こうした文部科学省の行動に対しては、
・行政府が安易にメディアを批判するべきではない
・”定額働かせ放題”という言葉は、現在の教員の働き方を端的に表現したものである
 という2つの点から批判が集まっている。

 前者については当然のことだろう。文部科学省としては、その立場上、こう言わざるを得ないのだろうが、こういう批判によってメディアを委縮させることは慎むべきだ。

 後者に関しては、この問題に詳しい教育研究家の妹尾昌俊氏が、すでに昨年6月の時点で、”定額働かせ放題”という言葉が「ミスリードで、誤解に満ちている」として警鐘を鳴らしている。

 妹尾氏の言うとおり、給特法に基づく教職調整額の仕組みは、本来ならば長時間労働の抑制を目指すはずのものだった。”定額”ではあっても、けっして”働かせ放題”を企図するものではなかったのだ。

 しかし、民間企業のように時間外勤務手当を支払うことに比べれば、学校の管理職にとって給特法は「楽な」仕組みなのである。事実上、多くの学校管理職は給特法によって労務管理を免責されているというのが現実だ。

 理想はともかく、実際にはそれが機能しておらず、教員の長時間労働の常態化を招いているのが給特法だといえる。そして、今回の「審議のまとめ」によって、その継続が決定的となった。

 こうしたことを鑑みれば、今回の報道に”定額働かせ放題”というパワーワードを使うことは是とするべきだろう、と私は考える。


 せっかくだから、もう一度この”抗議文”を読んでみよう。

 実際のニュースで流れた内容は、Web記事の表現とは若干異なる。本文の1行目から3行目にあるように、

定額働かせ放題、どれだけ残業しても一定の上乗せ分しか支払われない教員の給与の枠組みはこのように呼ばれています。」

定額働かせ放題ともいわれる枠組み自体は残ることになります。」

 というのが実際の報道内容だ(太字は立田による。以降も同じ)。

このように呼ばれています
ともいわれる
 と、かなり慎重な言い回しを用いている。けっして”抗議文”の8行目にあるような「一面的」な表現ではなく、別の見方や考え方があるということも意識し、「多面的」な含みをもたせた言い方になっているのだ。

 逆に8行目については、NHKがニュースのなかで、
定額働かせ放題ともいわれる枠組み
 と表現していたのにもかかわらず、
”定額働かせ放題”という枠組み
 という「一部の方々」が使う「一面的」な表現を用いている。

 本来、この部分にはNHKが実際にニュースで使った表現を正確に引用するべきである。それをこうした「一面的」な言い方にすり替えて、印象操作をしているようにも感じられる。

 仮に印象操作をしようとする意図がなかったのだとしても、そうした誤解を与えている時点で中央省庁の局長名で発出する文書としては落第だろう。

 そもそも、NHKのWeb版では”定額働かせ放題”と引用符(“ ”)で括られている(この記事もそれに倣った)。要するに「いわゆる、定額働かせ放題」ということであって、本当に「定額働かせ放題」をさせるという意味ではないのだ。

 ちょうど、”異次元”の少子化対策がちっとも「異次元」ではないのと同じなのである。

 最後になるが、”抗議文”のなかには、

「なぜこのような制度になっているのか、現行の仕組みや経緯、背景について触れることなく」

「様々な議論を経て中央教育審議会の『審議のまとめ』が取りまとめられたにもかかわらず」

「今回、なぜ教職調整額の仕組みを維持するとしたかという中央教育審議会の議論の内容に触れることのない一面的なもの」

 といったNHKへの批判的な文言が並んでいる。

 しかし、文部科学省としては、こうしたことに触れられなくてよかったのではないだろうか。なぜなら、この「審議のまとめ」は論理的に綻びだらけだし、審議そのものが「結論ありき」「出来レース」と呼ばれても仕方がないものだからだ。

 このことについては、すでに多くの方々が指摘をしているし、私もこんな記事を書いた。

 文部科学省は、むしろNHKに感謝をするべきなのかもしれない。

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