見出し画像

ベスト・イレブン

 先日、サッカー・Jリーグの年間表彰式が行われ、ベスト・イレブンにはヴィッセル神戸の大迫勇也選手をはじめとする11名が選出された。

 実は私も、かつて「ベスト・イレブン」の一員だったことがある。無論、Jリーグとは無関係なのだが。


 10年ほど前、私が某小学校で校長を務めていたときのことだ。当時、S区内には私の勤務校を含めて小学校が11校あった。

 当然、校長も11名である。

 あるとき、11名のうちの最年長で、区の校長会の会長でもあるT氏が、
「校数にちなんで、この校長会を『ベスト・イレブンの会』と名付けることにしよう」
 と提案してきた。

 私はそれほど気乗りがしなかったが、だからといって猛反対するほどのことでもない。

 結局、会の名前はT氏の提案どおりに決まった。


 それから数か月後、秋の連休を利用して区の校長会で1泊2日の旅行をすることになった。目的地は熱海である。

 熱海駅から10分ほど歩いて旅館に着くと、玄関の横には歓迎用の看板が並んでおり、そのなかにはこんな表示があった。

歓迎
ベスト・イレブンの会 御一行様

 どうやら、幹事がこの名前で予約をしたらしい。

 恥ずかしいのを我慢してチェックインをしようとしたところ、案内をしてくれる仲居さんたちが、なぜか怪訝そうな顔をしている。

 フロント係の人にも、
「『ベスト・イレブンの会』の皆様でお間違いございませんか?」
 と、念押しをされる始末である。

 だが、そのように扱われる理由はすぐにわかった。旅館の皆さんは、
「『ベスト・イレブンの会』というくらいだから、サッカーのチームが泊まるのだろう」
 と思っていたのだ。

 それなのに、およそサッカーとは縁がなさそうな「くたびれた中年の団体」が来たものだから驚いてしまったらしい。

 そもそも「ベスト・イレブン」とは、その大会やシーズンで著しい活躍をした者だけに与えられる称号である。

 駅から10分ほど歩いただけで息が上がっているような連中に、「ベスト・イレブン」を名乗る資格などないのだ。

 命名者であるS氏には、最低でもイエローカードが1枚出されるべきだと思った次第である。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?