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Netflix『シューマッハ』:素顔の皇帝

 スポーツ関係の映画・ドキュメンタリーを紹介するnote。今回は、9月15日からNetflixで配信開始されたドキュメンタリー映画『シューマッハ』を紹介したいと思う。

  本作は、通算7度のF1ドライバーズチャンピオンに輝いたミハエル・シューマッハの足跡を振り返るドキュメンタリー作品となっている。

 Netflixについては、F1の密着ドキュメンタリーシリーズ『Formula 1: Drive to Survive』(シーズン2まで配信)を製作した実績がある。さらに、本作ではシューマッハの家族・関係者の全面協力を受けており、幼少期のカートレース、家族とのプライベートビデオ等の貴重な映像とともに彼の素顔に迫った内容となっており、ファンにとっても非常に見応えのある内容と言える。

〇 【ミハエル】【シューマッハ】という2つの顔

 シューマッハといえば、F1での鮮烈デビューが取り上げられるが、彼自身は決して恵まれた環境にいたわけではない。父親からプレゼントされた手作りカートで関心を持った幼いシューマッハは、性能の劣るマシンを卓越した運転技術を駆使して勝利を重ね、レーシングマシンへの道を切り開いた(曽田正人先生の傑作『capeta』のエピソードを思い出した)。
 彼のデビュー時、F1はアイルトン・セナが頂点に君臨していた。背中を追いかけたセナの事故で得た心のダメージ、新興チームであったジョーダン・ベネトンで獲得した初のドライバーズチャンピオンシップ、名門・フェラーリ復活に向けた奮闘、ミカ・ハッキネンとの激闘の末に手にしたフェラーリでの王者獲得等、濃厚でドラマチックなキャリアが鮮やかに描かれている。

 今年1月に鑑賞した映画『ディエゴ・マラドーナ 二つの顔』で取り上げられたマラドーナもそうであったが、シューマッハもまた、家族思いの優しい父親である【ミハエル】、ストイックで闘争心を全面に表す【シューマッハ】の2つの顔を併せ持っていたことがわかる。
 ただし、本作のハイライトともいえるフェラーリの復活の背景には、【シューマッハ】として振舞うサーキットにおいて、苦労を共にするチームメイトを思いやる【ミハエル】の一面があったことも理解できる。サーキットとは異なる顔を知ることが出来ることが本作の見どころといえるだろう。

〇 家族を繋ぐ「ドライバー」という共通言語

 だからこそ、終盤に改めて伝えられる現在の彼を見守る家族の言葉は重く鑑賞者の胸に響く。家族思いの優しいミハエルが、事故以降は依然として厳しい状況に立たされている。
 言葉の端々から、ゆっくりと幸せな時間を過ごすはずだった家族たちの苦しい胸の内を垣間見ることができた。本作の制作に家族が協力した背景には二つの顔の存在を多くの人たちに知ってもらうことで、彼の心に寄り添ってもらいたいという思いがあったからかもしれない。

 本作にも登場する息子であるミック・シューマッハは、今年からハースのドライバーとしてF1に参戦している。ドライバーという共通言語が自分と父親を繋げているというミックの言葉が印象に残った。まだまだ結果は残せていないものの、シューマッハの名前が再びサーキットで連呼される日はそう遠くないかもしれない。その時は、元気になったミハエルも近くに寄り添ってほしいと強く願う。

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