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『わがチーム、墜落事故からの復活』:悲しみの向こう側

 スポーツ関係の映画・ドキュメンタリーを紹介するnote。今回は、Amazon Prime Videoで配信されているドキュメンタリー映画『わがチーム、墜落事故からの復活』を取り上げたいと思う。

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 本作品は、ブラジルの小さな街・シャペコにあるプロサッカークラブ・シャペコエンセに密着したドキュメンタリー映画である。FOXスポーツが製作に携わっているが、同国リーグやカップ戦の放映権を取得していることが関係していると思われる。

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 2016年11月、小さな街の小さなサッカークラブであるシャペコエンセの名前は世界中を駆け巡った。南米各国のクラブで争うカップ戦の決勝に進出したシャペコエンセは、試合が開催されるコロンビアに向かうために搭乗した飛行機が墜落したからだ。

 墜落事故では、選手をはじめ、監督・クラブ役員を含めた多くの関係者が亡くなった。カイオ・ジュニオール監督(元神戸)、ケンペス選手(元C大阪・千葉)、アルトゥール・マイア選手(元川崎)等、Jリーグのクラブに在籍経験のある選手・監督もいたことから、日本でも大きく取り上げられ、かつての所属クラブを中心にスタジアムで多くのサポーターが悲しみを共有した。

 本作では、その後も断片的に情報が伝えられていた墜落事故後のクラブの複雑な実情を伝える内容でもあった。海外タイトル獲得が見えてきたシャペコエンセの快進撃は突然の終わりを告げ、一転してクラブ存続の危機に陥る。これに対して、残された経営陣は新たな役員・監督・選手を集めて再建を目指す(ちなみに監督に就任したマンシーニは日本のホンダでのプレー経験がある)。

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 シャペコエンセの再建は、シャペコという街のDNAに関わる問題であると市長は熱弁する。街に活気と連帯をもたらすプロサッカークラブの存在は、地域のカルチャーに根付いていることを窺い知ることができる一面であるが、再建に対する重責もはかりし得ないものであることも理解できる。

 急造チームの難しさから序盤は躓いたシャペコエンセであるが、徐々に成績は上向いてくる。その過程において、監督が前年=過去との比較を振り払い、現在のチームに集中させるように促したように、クラブは未来に進もうとするが、墜落事故に対する向き合い方に対して生存者・遺族との温度差が生まれていることを伝えている。

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 事故から生存した3人の選手・遺族に対する補償・メンタルケアが行われず、不安な日々を過ごしている。生存した3選手のうち、2人は現役続行したものの、リハビリと対峙しながらも、クラブは再建の象徴として会見等に露出することを強く求められる。選手の1人は、こうしたクラブの対応に怒りの言葉をぶつける。当てはめたような美談で終わらない、当事者たちの生の声を伝えることに本作の意義を感じる。

 遺族・生存者たちは、(2016年のチームに対して)家族のような深い結びつきをもった素晴らしい仲間たちの存在を語る。彼らは、こうした深い関係性こそクラブのアイデンティティであり、それが(取材時)現在のクラブにないことを指摘する。

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 残された人々とクラブが大きな溝を抱えたクラブは、カップ戦決勝の相手だったアトレティコ・ナシオナルと対戦するため、たどり着けなかったコロンビアに向かう。コロンビアの都市・メデシンでは、シャペコエンセに寄り添う多くの人たちの温かさに触れるとともに、現在のチームでは太刀打ちできない実力差に打ちひしがれる。

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 試合翌日、生存した3選手たちは事故現場に足を運ぶ。事故対応してきた関係者の声を聞き、山中にある事故現場から眺めを見渡す。一緒に戦うはずだった仲間たちの思いをともにし、彼等は改めて前に進む決意を固めたようにも見える場面だった。

 クラブは成績が再度低迷したマンシーニ監督を解任する等、再出発を切る。リハビリを続けていた選手もピッチに復帰し、クラブと遺族も和解に向けて動き出すなど、内外における再建が本格化する動きが伝えられたところで本作は終幕する。(本作では伝えられていないが、シャコペエンセはスルガ銀行カップ2017において浦和レッズと対戦するため来日している)

 
 その後、作中でも触れられていた遺族補償等による財政負担の影響で補強等が進まず、2019年シーズンはブラジル1部リーグ・セリエAから降格。クラブにとって厳しい現実は続いている。しかし、小さな街の誇りであるサッカークラブの復活を世界中のサッカーファンは待っている。VAMOS CHAPE!

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