見出し画像

『ONE FOUR KENGO THE MOVIE ~憲剛とフロンターレ 偶然を必然に変えた、18年の物語~』:地域とともに歩んだクラブと選手の物語

 スポーツ関係の映画・ドキュメンタリーを紹介するnote。今回は、川崎市内で限定公開中のドキュメンタリー映画『ONE FOUR KENGO THE MOVIE』を紹介したいと思う。

〇 奇跡が重なって生まれて紡がれた筋書きのない物語

画像1


 本作は、昨年(2020年)に現役引退した中村憲剛さんと、彼が所属した川崎フロンターレの18年間の歴史を追ったドキュメンタリーとなっている。

 憲剛さんのキャリア終盤5年の出来事は、本年(2021年)に発売された著書『ラストパス』に詳しく語られている。また、最高の5年間を迎える前の2011年~2015年の葛藤を続けた日々は飯尾篤志さんが書かれた『残心』で細かく語られている。

 移籍市場のグローバル化の流れはもちろん、日本国内においても選手の移籍が当たり前となった今般において「ワンクラブマン」を貫いた憲剛さんの存在は貴重だと思う。

 しかしながら、四冠のチャンスがあった2009年にフロンターレがタイトルを獲得できていたら、自身の能力を解放させた風間さんに出会っていなかったら、そして2017年に優勝できなかったら、1つのクラブで40歳まで現役を全うすることは無かったかもしれない。本作を鑑賞し、このドキュメンタリーが成立した奇跡の価値を噛みしめていた。

〇 街全体にパスを送り続けた「川崎のバンディエラ」

画像2

 
 また、憲剛さんの18年間のプロキャリアは、今年で25周年を迎えたフロンターレの歴史にほぼリンクしている点も本作の大きなポイントだと思う。映画は双方の歩みを交互に紹介する構成となっており、Jリーグの成績に限らず、地域貢献活動も大きく取り上げられていたのが印象的だった。
 本作では、川崎市長から商店街の店主まで、様々な人たちが憲剛さんとフロンターレに対するコメントを寄せている。それは、サッカーどころかプロスポーツが根付かない街言われ続けてきた川崎の土地において、地域生活の様々な分野にクラブが携わってきたからである。
 たしかに、地域貢献活動はクラブを語るうえで欠かせないエピソードであると思いつつ、頭の中では「本作の枠組みに外れるのでは?」とも考えた。しかしながら、作中でも取り上げられたように、そうした活動に誰よりも真摯に取り組んできたのも憲剛さんなのである。つまり、ピッチ上に限らず、地域のいたるところでパスを出し続けてきた地域貢献活動もまた「プロサッカー選手・中村憲剛」のキャリアを語るうえでは欠かすことができない仕事である。

画像3


 だからこそ、映画のハイライトととも言える引退セレモニーで憲剛さんが見た等々力の景色は「成績」と「地域貢献」を両輪に走り続けてきたクラブの最前線で活躍した選手だからこそ描くことができたモノだと言える。中村憲剛は『フロンターレのバンディエラ』ではなく『川崎のバンディエラ』がしっくりくると思う。

〇 プロスポーツクラブの価値を引き上げる「公共性」の視点

画像4

 本作のテーマを踏まえ、私見を述べていきたい。今般、バスケットボールを起点に卓球、女子サッカー、ラグビー等、プロスポーツの領域が拡張が続いている。こうした流れに相まって、近年ではスポーツはビジネスとして「稼ぐ」に関する議論が活発になっている。
 筆者もスポーツをはじめ、興行ビジネスの現場に足を運んでいるので「儲ける」ことが悪だとは全く考えていない。むしろ、国内における競技環境を持続・発展するためにビジネスとして成長することは必要なことだと思っている。しかし、プロスポーツクラブが提供できるのは主催興行を通じて経済的効果だけなのか?といえば、そうではないと考えている。
 本作には、そうしたプロスポーツクラブの可能性を探るうえで参考となるヒントが多くある。地域に根差しているからこそ、学校における学習機会のアシストすること、地域にある魅力を発掘して展開すること、あるいは地域が抱える課題解決に共同参画して1つのゴールを目指すこともできる。
 カッコいいエンブレムも、欧州の香りが漂う本格志向といったブランド化も素晴らしい取組だと思う。ただし、欧州・南米のようなサッカー文化が盛んな国がそうであるように、サッカーファンに限らず、サッカーを全然知らない地域の人たちにとって価値のある存在になるためには、地域生活に寄り添う「公共性」の視点も必要なのではないだろうか?
 スポーツビジネスが盛り上がる今のタイミングで、プロスポーツクラブとホームタウンの関係性を掘り下げた本作の意義は非常に大きいと思った。

〇 「栄光」と「絆」というレガシーを語り継ぐこと 
 本作の鑑賞を終えて、憲剛さんが川崎フロンターレにもたらしたものは、数々のタイトルと、地域とクラブの間で結ばれた絆なのだと思う。
 そして、1人のサポーターとして憲剛さんが残したレガシーを継承していきたいと思った。周囲から人気クラブ・強豪クラブと言われるようになっても、原点にあるのは「川崎という街・地域を盛り上げる」ということを忘れてはならない。

画像5

自分が生まれ育った街のクラブとともに、これからの人生も歩んでいく。中村憲剛の想いとともに。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?