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ドイツエルツ地方のミニチュア(エルツおもちゃ博物館)

軽井沢ムーゼの森にあるエルツおもちゃの博物館へびゅーんと行ってきた。東京駅から新幹線で1時間、軽井沢駅から自転車で30分。これ、新幹線の偉大さを感じる時間配分。

夏の終わりの気持ちよい日に、頭上からイガイガ栗が降ってくるちょい恐い秋を感じながら「エルツ地方のミニチュア展」を見てきた。

エルツ地方のミニチュア展

ドイツのミニチュア産業の歴史は実に合理的。おもちゃ生産の中心はエルツ地方のザイフェンという街で、もともと鉱業が盛んだったが鉱産物が採れなくなり、新しい産業を模索した結果、木工品・おもちゃに辿り着いた。鉱石を砕く機械の応用や、ろくろを使って木を削り金太郎あめのようにして切り落とし量産する…無駄のない制作をしていた。

1980年ごろになると、輸出の関税制度で、それまで価格に対して税金が決まっていたものが、重さにかかるようになったため、軽く小さいミニチュア作りが盛んになった。

エルツで有名なミニチュアは「ノアの方舟」と「マッチ箱」

世界的に有名になったきっかけは「ノアの方舟」玩具。船型のドールハウスにたくさんの動物ミニチュアが2体ずつ乗っている。50~100種類の動物が乗っている豪華なおもちゃで、アメリカやイギリスに主に輸出されていた。数を数える、動物を知るという知育玩具のような役割と、聖書の物語を知るための宗教普及の役割があり、他の玩具を禁止されている礼拝の日でもノアの方舟は遊んでOKだったとか。子供にとってもラッキーアイテム。

エルツおもちゃ博物館の向かい側にある絵本の美術館でノアの方舟の本があったので読んでみた。ノアってブドウ農家だったことをはじめて知った。この本だけかもしれないけれど、ブドウ作りをしているおじさんノアだった。

もう1つの有名なアイテム「マッチ箱」ミニチュア。
私はこれを見にきた。マッチ箱の中に、伝統的な生活や物語が描かれているミニチュアだ。問屋のH.Eランガーさんが重さ課税の輸出難を打破するために考えたのがマッチ箱ミニチュア。ちょうどスウェーデンでマッチ箱が開発された時期で、ひらめいたようだ。

マッチ箱なので中は守られ、重さは軽く、持ち運びも便利なこのシリーズはランガーさんの商品だけで年間50万個輸出された。

ノアの方舟や他の木の玩具に比べ安価であることも特徴で、庶民でも買える玩具としても人気が出た模様。

売店でも売っていた。5,000円ぐらい。
花屋さん、学校、パン作り、農家の台所、アンデルセン童話の1シーン、サンタの玩具工場などの季節モノなど種類の多さはコレクター魂を揺さぶってくる。1つ買ったら…1つだけでは止まらない気配しかしない。

マッチ箱の他にも、曲げわっぱのような木箱(シュパンシャハテル)に入ったミニチュアシリーズもかわいい。曲げわっぱ木箱は木を削ったときに出るかんなくずで作っていたらしい。本当に合理的。

各工房のミニチュアたち

エルツ地方にはたくさんのミニチュア工房があり、工房ごとに特徴がある。この企画展では工房ごとに分けて紹介されていた。

<参考>オンラインショップのまとめがわかりやすい↓
・ 「ザイフェン」(工房紹介)
・ 商いや山田(ドイツ・エルツ木工芸品工房)

ミニチュア工房①ヴェルナー家

ノアの方舟シリーズを作っている家系のクリスチャン・ヴェルナーがマイスター(職人)として営む工房。工房は一家でマイスターとなり技術や伝統を受け継ぐスタイル。
父のヴァルター・ヴェルナーはエルツの代表的玩具「くるみ割り人形」のミニチュアを作っていた。この小さなくるみ割り人形もレバーを動かしてくるみを割る仕組みになっている。この技術を生かして、次男のヴォルフガング・ヴェルナーは仕掛が入ったミニチュアを制作している。取っ手を動かすと乗馬する人々のミニチュアが動くなどの作品がある。

<参考>
ヴェルナーグレーザー(WERNER GLASSER)工房:冬シリーズ
ヴァルター・ヴェルナー工房サイト
クリスチアン・ヴェルナー工房サイト
ヴォルフガング・ヴェルナー工房サイト

ミニチュア工房②グレックナー家

4代にわたって続いた工房。4代目のヴォルフガング・グレックナーは先代のモデルを作るだけではなく自身のアイデアを取り入れることを大切にしていた。
着色料は使わず、使用する木の種類を変えることで色の濃淡をつけていた。木以外の素材は使わないという特徴もあり。
後継者がおらず2018年に工房閉鎖となった。
(呼んでくれ…継ぎたかった)

ミニチュア工房③ファルコ・ベイヤー
(シュパンバウム専門工房)

木のおもちゃ職人の登竜門と言われる技術を生かした作品。1本の木をのみを使って削るとくるんとしたカールができる。このカールを利用して装飾していく。
シュパンバウムはミニチュア作りのおまけとされていたが、次第にその精巧さに人気が出て、シュパンバウムそのものを楽しむファンが現れてきた。
シュパンバウム専門工房を営むベイヤーさんは14歳から技術を学び1997年に工房設立。写真のおじさん人形とシュパンバウムのコラボ作品のようなコラボレーションや、シュパンバウムだけで出来たクリスマスツリーなどがある。

<参考>
ザイフェンの特技【シュパンバウム】削り木

ミニチュア工房④ギュンター・ライフェル

1989年設立の工房。金色の丸い翼が付いた天使が代表アイテム。守護天使(SCHUZENGEL(R))シリーズという名称。悪魔シリーズも作られているらしい。幸運のくま(Kunffigen Glucksbaren)シリーズが展示されていた。

丸みがあり陽気な表情が特徴的。素材のメインは天然の木材であたたかみも感じるミニチュア。小さいパーツは1つ1つ決められた設計・角度でピンセットを使って組み立てていくらしい。

国内外で愛されてきたこの工房の作品。なんと工房が2023年4月で閉業!今後、希少性が出そうな予感がする天使やくまちゃん。

<参考>
ギュンター・ライヒェル(ドイツ玩具専門店ヴァルト)

ミニチュア工房⑤ベッティーナ・フランケ
(旧ゲンゼリーゼル)

1929年創立の歴史ありありな工房。現在は木材工学の専門家ベッティーナ・フランケの木彫りの人形が特徴的な工房になっている。
緑の帽子に赤い服をきたドワーフ(働き者として知られている妖精の一種)がクリスマスの飾りつけをしていたり、マリンルックの女の子と男の子がいるなど、このようなデザインも特徴。

<参考>
ベティーナ・フランケ Bettina Franke 工房
初夏の旅行@エルツ地方2021 ~ベッティーナ・フランケ工房へ~

ミニチュア工房⑥グラウプナー

1986年に木工おもちゃ職人のロナルド・グラウプナー夫妻がはじめた工房。代表的なミニチュアは木製のグリーンカード「幸せの小箱(Gluckwunschkaete aus Holz)」シリーズ。
小さな箱の中に、日常風景、クリスマス、童話などのテーマで色鮮やかな作品ができている。本工房はオルゴールなども作っておりアイテムは400種類ほどあるらしい。

とてもかわいい。かわいいけれど個人的には大きすぎる。小箱ミニチュア<マッチ箱ミニチュアだ。

ミニチュア工房⑦ヴェント&キューン

1915年にグレーテ・ヴェントとオリー・ヴェントの2人によって設立されて100年以上も世界中に愛されているミニチュア工房。「天使のオーケストラシリーズ」で知られている。1937年パリの万博で金賞を受賞。エルツ地方の玩具は硬いイメージを持たれていたが、この受賞を機に世界からの印象が変わった。可愛いけれど格式高い(高級感があるという意味かな?)が特徴。

ミニチュア工房⑧ライヒセンリンク ウェーハー
(現在はディーター・レグラー工房と統一)

フラワーマーケットのミニチュアは花の形に特徴がある。ろくろで木を回転させてのみで角度を変えて削っていく手法。花びらができて行く。この手法から「花の工房(Blumen Macher)」と呼ばれている工房。

<参考>
Leichsenring

子供たちが花を掲げる「花の子」知られている。「花の子」は世界でも有名になったミニチュア作品。

創立者はフリッツ・ハウプトさん。教師の傍ら、おとぎ話やクリスマスの木工おもちゃを作っていた。戦争のため、講師業ができなくなり本格的におもちゃ作りの世界へ没入。

ミニチュア工房⑨ゴットフリート・ヒュプシュ

実用化を兼ねたミニチュア(ドールハウス)を作っている工房。
「天気予報の家」(Wetterhaus)は湿度計の機能をもったミニチュア。湿度や温度の変化で反応するガットの糸が使われている➉。
小さな家の中に晴れの日は女性、雨の日は男性がでてくる仕組み。

ミニチュア工房➉ブランク社

グオルグ・ベイヤーが創立したエルツ地方のグルンハイニヒェンという町にある工房。ゲオルグはろくろ技術を学びその後に起業して、チェスセットの生産をスタート。イースターラビットや小人のおもちゃで有名になった。
プリーツスカートの天使が人気商品。この天使のミニチュアは世界中にコレクターがいる。

ミニチュア工房⑪クヌース・ノイバー

エルツ地方で最も歴史のある工房の1つで1892年にエミール・ノイバーが創立した。当初はカエデ材で台所用品を生産していたが、後におもちゃへ転換。現在は6代目。クリスマスピラミッド・シュヴィップボーゲンなど多様なおもちゃを制作しているが、主な商品は「チップポックス(Spandosen)」。きれいな木箱に聖歌隊やサンタクロースが入っていて小さな景色のかけらを楽しむことができる。

ミニチュア工房⑫ロミー・ティエル

ロミー・ティエル(Romy Theil)はエルツのドイチョイドルフにある工房です。丸みがある子供の人形が特徴的でマフラーを巻いていたり、ランタン、クッキーなどのアイテムも持っていたりかわいすぎる。冬の子供たちのミニチュアは代表作品で工房のマークにもなっている。

<参考>
ティール工房 屋台とこどもたち

ミニチュア工房⑬グンター・フラート

説明ポップを見落としていたけれど、おそらくグンター・フラート作品たち。小さな箱に、お店や学校など日常を閉じ込めている作風が特徴。マッチ箱よりも大きい…とはいえ、11×6×4cmの小さな作品。

<参考>
グンター・フラート「クリスマスの玩具屋」

ミニチュア工房⑭ミュラー

エドモンド・オズワルト・ミューラー(Edomund Oswald Muller)が創立した4世代続く120年以上の歴史ある工房。落ち着きのある見た目と光沢が特徴。木材は厳選な品質検査を通過した桜、カエデ、紫檀(したん)、マホガニーで光沢を出すためのニスも念入りに塗られている。自然色を生かしているため色付け工程がないけれど、それよりも時間かけられているのでは…

ミニチュア工房⑮ギスベルト・ノイバー工房

ザイフェンの代表的な伝統工芸品の一つであるマッチ箱のミニチュアの製造を引き継ぐ工房。伝統を守るために1986年に設立された。8畳ほどの自宅の小さな部屋で4人でコツコツ作っているミニチュア作り手にとって理想の職場環境。私が一番好きな工房。全シリーズほしくて仕方ない。

<参考>
商いや山田

ミニチュア工房⑯フラーデ工房

1990年に始まった工房でドイツの挿絵/画家ルードヴィヒ・リヒターの作品からインスピレーションを得て、“小さな宝物”と呼ばれる子供達や天使を制作。特徴は髪の毛。


クリスマス・クリッペシリーズ

クリスマス定番の玩具。キリスト誕生の場面を表現しているミニチュアで、厩にいる幼児キリスト・聖母マリア・東方の三博士、羊飼いで構成されている。クリッペ自体はイタリア発祥でそこからヨーロッパに広まった。木彫りのクリッペは高価なので、毎年買い足していくというコレクション方法も人気。ドイツの有名クリスマスマーケットでは会場に大きなクリスマスクリッペが飾られているらしい。

シュパンシャハテル(わっぱのような箱)シリーズ

小さな玩具が壊れないように考えられたのが、わっぱのような木箱への封入。おもちゃを削るときのかんなくずからできている温かみのある箱。ミニチュアとシュパンシャハテル(わっぱ箱)はとても相性がよくエルツ地方おもちゃ産業の創成期の特徴にもなった。

軽井沢小旅行メモ

エルツミニチュア展は何時間も見ていたい。けれど、お腹が空いて仕方ない。なんか食べ物を持参して臨めばよかった。一番近いのは軽井沢タリアセンの中のレストランだけれど、名物薔薇の時期でもないしアウトドアもしないのに入場料を払う気がせず…どこかでランチしようと自転車こいで見つけたのが、ガレットのお店カシェットCachette

料理出るまでに時間かかるとのこと(そんな気になるほどの時間ではない)。エルツおもちゃ博物館から自転車で10分ちょいぐらい。ランチ後に再入場でミニチュア観戦の二回戦。

ちなみにムーゼの森は絵本の森ミュージアムとエルツおもちゃ博物館がある。絵本の森ミュージアムはピーターラビット関連の本が大量に常設されている。絵本を読むための場所もたくさんある…がゆえに近所にほしい系の施設。観光という時間が限られている中、1日中ここで過ごすという贅沢な時間は難しい。

思い出に何か…と1冊読んだのが「ノアの箱舟」。ミニチュア展でも見たしちょうどいい。

ノアの箱舟、だいたいのあらすじは知っていたけれど、この絵本で知ったのは、ノアはブドウ農園のおじさん、船の中の生活が細かく書かれていてけっこう苛酷な漂流だったことがわかった。

ドイツのマイスター(職人)いいなー。
称号もかっこいい響きだし、何より「モノづくり」技術が評価されているのがいい。

日本は、趣味で、音楽の方が評価される機会が多い気がする(持論だけれど)。手先が器用、絵が上手いというのはカラオケ、ライブ等みたいに披露する場がないので仕方なさもあるけれど。

昔から感じていたのは、日本人よりも外国人の方が手先の器用さを評価してくれる傾向がある。インドネシア人はミニチュア作品見て、写真を撮りたいと私と2ショットを撮っていった(ミニチュアじゃない笑)。

近年は国内もハンドメイド市場やSNSのおかげで改善傾向にはあるとは思う。よい時代になってきた。

あードイツのマイスターになりたいなーとつぶやきながら自転車こいでたら雨雲が近づいてきてピンチ。山の天気はわからない。

お土産はチョコレートファクトリーでチョコ、沢屋ジャム×4(ナガノパープル、プルーン)、峠の釜めし×陶器や瓶もののずどんな重さでさえ、満足感に感じる良い旅だった。

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