土砂降りの雨

這いずるように倒れ込んだ路地裏


息をするのが 苦しい


ぼやける視界の前

一人の男が座り込んだ


ああ、また "買われる" んだ


男は黙ったまま立ち去った

後ろ姿には水が滴っていた


"買われる" 価値もない女に "また" 堕ちたんだと

雨と共に 閉じた瞼から涙が流れた


暫く動くことも出来なかった


そんなわたしを道行く人々は

汚いモノとして横目に見ながら通り過ぎていく


突然 あんなに冷たかった雫が止む


目の前には先程の男がいた


男は何も言わず 傘を渡そうとする


『馬鹿じゃないの?、わたしは、娼婦なのよ』

『買うつもりがないなら、さっさと、去ってよ!』


「君が濡れていたから」


訳が分からなくて わたしは鈍った体で抵抗した


「君と同じ 風邪を引かせてくれよ」


この男は何を考えているのだろうか

傘を置いて また立ち去った

男は傘を差さずに去っていった


わたしは また動くことが出来なくなった

その夜はボロボロの家で 高熱を出し寝込んだ

くしゃみが止まらない


ああ、あと数万 家賃 が足りない


誰からの 愛情 も 足りない


また "買われなければ"


満たされた生活を夢見た

数日寝込み 更に痩せ細ったわたしは

今日も暗い暗い路地裏に 立っている


「買うよ」


目の前に 男が立っていた

この前とは違って 乾いた服を着ていた


『やっぱり、買うのが目的だったのね』


「ああ、君と同じ風邪を引いたからな」

男の大きな家に招かれる


「好きに使っていい」


『え?』


わたしの手すら握らず ソファに一人掛ける男


『…前払いで、貰ってるの。最低限の、』


「だから、もう 支払った」


やはりこの男はよく分からない


でも 何故だか とても


惹かれる私がいた


「座らないのか?」


混乱している私に問いかける


『つまり、』

「君自身を "買った" んだ
 君は今日から この家に住むんだよ」


この男は 娼婦 という底辺の仕事をしている私を

どうやら "拾って" くれたらしい


この家は とても広くて 綺麗で 家賃 は要らない


そして 何故か いや 確かに

愛情 を貰った


足りないもの全てが 満たされていく


ボロボロの家を引き払い

最低限しかなかった荷物を この家に運ぶ


"買われた" わたしは この男に 対価を渡した


体ではなく【わたし】と【あの時の傘】を


綴り続ける文が 貴方の何かに 棘のように刺さったのなら