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加工デニムの裾上げについて      (洋服の修理をうける際に気をつけること❹)

洋服を販売してその修理を受ける際の注意事項についてです。

○洋服の直し、修理を受ける際は修理内容と修理箇所について

1、つくり上(構造上)可能か
2、もとのデザイン、形状が再現できるか
3、見た目が綺麗にできるか
4、バランスは許容範囲か


を考慮しなければいけません。

1〜4の項目が「どういうことか」順に説明していきます。

前回までで

「1、つくり上(構造上)可能か?」が
どういう意味かとその事例をいくつかあげ、修理を受ける際は「つくり上可能」かどうか確認することがスタート(大前提)になるというを説明をしました。

それでは続きです。

2、もとのデザイン、形状を再現できるか

です。
以前にも書きましたが既製服の修理は
股下・ウエスト・着丈など、どこを調整したとしても、「もとのデザイン、形状を再現する」のが前提になってます。
だいたいの洋服のだいたいの修理は寸法調整などしてももとの通りのデザイン・形状であがってきます。

ですが、残念ながら修理箇所、寸法、素材、デザイン、加工によっては修理をするともとのデザインや形状を再現できないというケースがたまにあります。

典型的事例とは言い難いですが、分かりやすいのはこれだと思います。

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〈デニムの裾、ヴィンテージ調の加工〉

レッドカードのデニムの裾です。タタキ(三つ折りステッチ)をチェーンステッチミシンで仕上げて、製品洗い加工です。

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〈強いアタリ(パッカリング)と擦り切れを表現〉

内側こんな感じです。いわゆる古着のヴィンテージデニムっぽい状態を人工的に施した加工です。
(※ここから少し話ズレますがせっかくなので加工デニムの要素入れます。
今回の蘊蓄ポイントです。一連の加工、気になる方は自分で要検索。)

・裾にチェーンステッチ(ヴィンテージ裾上げミシン的なミシンでガチガチに)かける
・洗い、乾燥で生地と糸が詰まって裾口がよりよれて立体的に
・裾のパッカリングをヤスリかマイクログラインダーで削る
・フェード(次亜塩素酸ソーダなどによるブリーチ)
・バイオストーンウォッシュ(セルラーゼによる繊維の分解と石のアタリ)
・ソーピング(汚れ落としの洗い)

正確には(どの加工がホントに必要でどの順番でどのくらいの時間やるか?など)わかりませんが、この辺の「製品後加工」がしてあると思われます。
わざわざ裾をこういう形状にするための加工で、これやってやっと完成品となります。
企画・デザイン段階から予定されている加工です。

スソ以外には、腿にシェービング、ヒゲとヒザ裏のヤスリがけがしてあります。

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〈腿のヒゲと全体的なフェード感〉

全体はこんな感じ。

大半の方が経験あると思いますがこういうデニムの裾上げは要注意です。

つくり上(構造上)は三つ折りのチェーンステッチですので裾上げすること自体に問題はありませんが、普通に裾上げして通常のタタキ(三つ折り本縫いシングルステッチ)で仕上げると、この「製品後加工」によるスソ形状が全く再現できません。

だけでなく、例えチェーンステッチ仕上げの指定にしてもこれだけこだわり加工してありますのでやっぱり全然再現できません。
(特にこの裾のよれてうねりのあるパッカリングがヴィンテージミシンか、またはそれを模したミシンで強くねじれたチェーンステッチをかけないと表現できません。その上でさらに洗いとヤスリがけです。)

ちなみに下は通常のタタキ仕上げの「本縫いシングルステッチとチェーンステッチの違い」の動画です。素晴らしくわかりやすいです。

動画はチェーンステッチミシンの動きを見せてくれてます。
が、今回、画像をのせている加工デニムのチェーンステッチは上記の通り、古い特殊なタイプの裾上げ用チェーンステッチミシン(または似せてつくったミシン)を使って、古着のヴィンテージデニム風の仕上がりになるようにしてます。

※その古いミシンの代表が『ユニオンスペシャル43200G』ジーンズ裾上げ用の超有名ミシンです。気になる方はこの単語で検索

画像のような古着ヴィンテージ感満載の見た目のデニムなのに普通の「タタキ仕上げ」にしてしまうと裾だけがなんか新しいフラットな感じになってしまいます。

『特殊なミシンを使って仕上げて、ヤスリ・グラインダーをかけて、ブリーチやバイオストーンウォッシュ等をかけた結果、この裾の感じになった』
というものなので修理屋さんではそれを再現することは不可能になります。
(つくった加工工場に持ち込んでも裾だけをおんなじようには多分できない)

洋服の修理で「一番スタンダードなパンツの裾上げ"三つ折り“」の再現がつくり的(構造的)には可能なのに加工のせいで結果的に不可能になってます。


※実際、この手のスソ上げはどう対応してるかというと
修理屋さんの試行錯誤で開発された「スソ残し」とか「ハリツケ」とか呼ばれる修理で対応してます。
修理屋さんによってよび方もやり方もそれぞれのようですが、もとの加工してある裾を利用してうまく丈調整する(単純にうまく繋いだり、ちょっと工夫したやり方で繋いだり)という手段をとってます。
料金もだいたい少し高くなります。

ちょっとわかり辛いですがこういう感じらしいです。

なんとなくわかればOKです。


では、これはどうでしょう?

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〈カットオフの裾、使用感のある加工〉

実はさらに厄介なのがこういうカットオフ、このくらい凝ったカットオフにされてしまうとただのカットオフ(本来は切っただけ)のはずなのに丈詰めで再現できなくなります。

切ってつなぐのも変なので、何もしないか、割り切ってお客様自身で好きにやっていただくか(似たような雰囲気にはできるかも)、、、

これはデニムという「製品後加工」が独自に進化発展した特殊なジャンルの事情ではありますが、通常の他のアイテムの通常の修理でも根本的な考え方は同じです。

既製品の仕上げや加工によっては修理後、“再現できない“ケースがあります。

だから「もとの形状が再現できるのか?」は修理うける際は一応いつも意識しておきましょう。

次回に続きます。

<まとめ>
・修理には「つくり上(構造上)可能でも「もとの形状が再現できない」ケースがある


・だから「もとの形状が再現できるのか?」は修理うける際はいつも意識しておく

注意:この内容はあくまで既製品の洋服を販売するにあたって実際に発生する修理内容を前提にしています。その範疇を大きく超えるような内容は想定していません。(リサイズ、デザイン変更、改造レベルの修理など)

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