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こち亀の恋


「お前こち亀読むんか」

と言われた。高1の春休み

高校生になって初めて「先輩」を好きになった

初めて好きになった「先輩」は文芸部のOBで四つ上だった。

もう働いていてワンボックスに乗ってて一人暮らしで、自転車でうちから20分の二階建てのコーポに住んでいた

部室で会う時はいつも私は多人数の後輩の中の1人

でも家の場所を教えてくれたのは私と他にあと数人。お土産くれたり麻雀教えてくれたり皆にも誰にも優しい先輩。

カラオケの約束もご飯奢ってくれるのも急な仕事で何度もキャンセルだったり

ドライブの予定も結局家でセブンブリッジ大会だったりしたけど

休日に先輩達と過ごす時間が好きだった

そんな或る日に、先輩のワンルームの押し入れから見つけたのは漫画の山。まず目に入ってこち亀全巻ある!って驚いた私に

「お前こち亀読むんか」「良かったら貸してやろうか」

えー100冊近いのに全部読めるかなあ

一度制覇してみたいとは思っていたんだけど

そんな私に先輩は「いいよお前なら少しずつ貸してやるから」

じゃあね読めたら返しにくるね

5冊10冊15冊20冊

初めの方は作者名も違うし絵も違うし

25冊30冊。でも読んだ

先輩の家まで自転車で20分。仕事帰りに部室に顔出してくれる事も有るけど、私と漫画の貸し借りの事なんか知らないふりして皆と話す。

40冊50冊。

家まで漫画を返しに行くとジュースを出してくれてどーでも良い事話してまたすぐ帰る。

遊ぶ時は皆と一緒。そう言う事の繰り返し。

繰り返し60冊70冊。

夏休みの花火は一緒に見に行った。

2人きりで無くても十分楽しかった。

でもそして83巻。或る日の玄関。少し開いたドアの隙間から女物の靴。奥に誰かの知らない気配。

「彼女」高2の私に21の先輩はとっても大人だ。

「訊けない」私はそのまま階段をそっと降りる。

自転車で自分の家まで帰る20分。

告白なんてしてない私はただ

こち亀を貸して貰っていただけで

ホントにただの後輩で。

次に部室で会った時「連れ」が来てたと先輩は言った

「連れ」の意味を深読みしてる

私は誰にも話せない

そうして83巻を部室で返し不器用な恋は終わり。チャンスが何処に有ったのか何を言えば良かったか。そして今28年経っても未熟な私にはやっぱり判らないまま。

ただ始まりは「お前こち亀読むんか」読ませてくれてありがとう。



と言うのが

こち亀が200巻全巻無料公開!

と今日聞いて不意に思い出したこと。

小1の時に小説家になりたいと夢みて早35年。創作から暫く遠ざかって居ましたが、或るきっかけで少しずつ夢に近づく為に頑張って居ます。等身大の判り易い文章を心がけて居ます。