在処
僕は、いつからここに居るんだろう。
今までどうやって息をして、どんな顔で笑っていたのか。
探しても探しても見つからない、僕は今、どこにいるんだろう。
これは、僕を探す物語。
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最初に思い出したのは、7年前の春の日。
桜が満開の道路を抜け、人混みから逃げるように歩く、
途中で何人かに声をかけられた気がするけど覚えてない、同級生の事に以前から興味がなくて、名前もろくに覚えようとしてなかったから仕方ない、愛想笑いだけ繕ってその場を離れた、そこは僕の居場所じゃないように思えた。
しばらく歩いて、群衆が見えなくなってきた頃、ほっとするようにため息をついた、手元にある煩わしいだけの花束をコンビニのゴミ箱に投げ捨て、動きにくい制服を着崩して公園のベンチに腰掛ける、見上げると憎たらしい程の青天井と、満開に染まる桜の木。
「これで、やっと、終わるんだ…」
未練も、思い出もない、空白の3年間。
それが終わった日は、少しだけ息が出来た気がした。
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次に思い出すのは、今からちょうど3年前。
窮屈な鳥籠から抜け出して見た世界は、なんとも在り来りな風景で、欠伸が出るような毎日だった。
息をしているだけで生きていない日々は、気を抜くと死んでしまいそうな程つまらなかった。安酒とタバコで一日のページが埋まる毎日は、心を腐らせるのに十分な要素だった。
昔から器用な性格で、他人より何事も上手く出来た、そのせいで元から居た人間がやる気をなくして、振り返るといつも誰もいなかった。
だから、趣味の話はいつも避けて通っていた、同じ趣味の人間が怖くて、誰にも話さないうちにいつしか自分の才能を見る人間はいなくなった。
存在の在処が分からなくなっていったのはちょうどその頃。
自分を形作る物が曖昧になって、いつしか昔を思い出せなくなっていった。
酒やタバコが与える身体への影響が、ついに脳にまで至ったかと思っていたが、そうでは無いらしい。
人間は合理的な生き物で、使わないと判断した機能は衰退していく、自分にとってどうやらそれは記憶の保持だったようで、昔の記憶が少しづつ消去されていった。
とはいえ、丸ごと忘れるわけもなく、誰かの物語を垣間見るような、自分の記憶と認識できないような、曖昧な感覚だった。
大半は忘れて良い記憶、思い出なんて呼べる物は何も無いのに。ひとつだけ、忘れてはならない記憶があった。
海の匂いと、夜桜の並木道。
それだけはたしかに僕の記憶で、薄れゆく記憶のなかでも輝きを放っていた。
その人の顔はどんなだったっけ。
その人の声はどんな色だったっけ。
「じゃあまた、会いに来てよ、桜の綺麗な、こんな夜に。」
僕の全ては、その記憶の中に。
僕の存在の在処は、その人の隣に。
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